家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
空気の流れをデザインする
通風と換気は一緒に計画する
昨今の新型コロナウィルス感染拡大により、通風や換気の重要性が益々高まっています。日本は古来、自然の風を観察して嫌いな風を遮り、好きな風だけを室内に取り入れてきました。しかしながら、高気密高断熱住宅が建てられるようになると、室内に空気の淀みが生じるようになりました。それにより、通風や換気の重要性が高まってきたのです。
通風は窓の計画でもあるので、施主も関心が高く、設計段階でいろいろと検討しようとします。しかし、換気となると「わかりにくい」ということで、設計者に任せてしまうことが多いのです。そのため、いざ住んでみると、給気口の前に家具をおいて通風を遮ったり、同様に給気口があるが故に飾りたいスペースに絵を飾れないなどの不満が多々出てきます。
通風計画を考える際に窓の位置と大きさと併せて、換気計画を考える必要があります。
給気と排気は対角に設置
より良い換気を行うことは、空気の流れをいかにデザインするかがポイントになります。例えば、住宅全体を換気する場合の換気経路は、各居室(リビング・寝室等)から給気をし、トイレや浴室の換気扇から排気をするという空気の流れを考えます。居室の空気をトイレや浴室から纏めて排気するため、居室⇒廊下⇒トイレ・浴室というルートで空気を流す場合、その室内の境界にある開き戸(ドア)には通気の確保が必須になりますので、1cm程度のアンダーカットや換気ガラリが施されます。
さらに注意することは、給気と排気の距離が短いと部分的な換気となってしまい、室内全体の空気の入れ替えが出来ません。効率的な方法としては給気と排気を対角に設置することです。
また、給気口を床面付近に設置した場合、給気口からの冷気で足元が冷えてしまい、施主自身で塞いだり、中途半端な位置に設置すると家具などが干渉する場合があります。そのため、給気口は壁の高い位置に設置することをお薦めします。ただ、高すぎても掃除の手間がかかるので、そういった配慮も計画時にするといいでしょう。図面では展開図に表現されますので、チェックしてみましょう。
換気の基本的なこと
2003年7月にシックハウス対策として建築基準法が改正され、24時間換気システムの設置が義務化しました。住宅の居室などは1時間で半分の室内空気を入れ替えることが求められています。数値では0.5回/hと表されます。例えば延べ面積100㎡、天井高2.5mの住宅の場合、室内空気の総量(気積)は250㎥です。この気積が2時間に1回入れ替わるには、1時間に125㎥の換気量が必要になります。したがって住宅内の空気がしっかり入れ替わるように、24時間換気システムの調節が求められるのです。
換気と省エネ
高気密高断熱の省エネ住宅において健康を考えた場合、24時間換気システムだけでは「換気が十分」とされないため、窓も開けて換気することが推奨されています。
しかし、窓を開けることで必要以上に入れ替わる空気の量が増えてしまうため、いかに換気による熱エネルギーのロスを抑えるかが重要となります。
そこで、熱交換型換気システムを導入する考え方があります。このシステムは給気と排気の熱を交換し、室温の変化を防ぐのに有効なシステムです。熱だけを回収し交換する顕熱交換式と、熱と一緒に湿度も交換する全熱交換式の2種類があります。熱交換率は70~80%と高く、省エネ効果に優れるため、年間の光熱費を抑えたい方にもお薦めです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。