家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
「家づくりの流れ」ここがポイント
心構えをつくる
「家を建てようと決めたけれど何から始めればいいのか分からない」という人は意外と多いのではないでしょうか。
まず、納得して満足のいく家を建てるには約1年かかることを見込み、入居時期から逆算して計画を進めることが大切です。家を何度も建てる人は一般的に少ないので、分からないことが多いのです。さらに人生で一番大きな買い物となるので慎重にもなります。まずは基本的なことを押さえ、一番大きな買い物だからこそ楽しく、尚且つ、つくって良かったと最後にお世話になった人へ感謝できるようにしたいものです。
まずは総予算を把握する
最初に準備しておきたいのは「予算」をしっかり把握しておくことです。自己資金として用意できるお金はいくらなのか、無理なく返済できる借入額を計算して総予算を決めておくことです。なかにはとりあえず住宅展示場を見に行ったり、ネットで情報を集めたりする人もいますが、手当たり次第情報を集めても予算に合わないと結局無駄になってしまいます。
どこに家づくりを依頼するか
家づくりを成功させる最大のキーポイントは「どことパートナーを組むか」です。ハウスメーカー、工務店、建築家の3つが主な依頼先となります。依頼先によっても工期は勿論、工法も変わります。それぞれのメリット・デメリットをよく理解し、最終的には自分達がイメージしていた住まいづくりと考え方が近いものを選択することが重要です。たとえば、オーダーメイドの家が欲しければ建築家、何かとメンテナンスが重要と考えれば近くの工務店、品質の安定を考えればハウスメーカーといった具合です。
これらのメリット・デメリットはたくさんの情報がネットに書かれていますので、調べてみて下さい。
住みたい家のイメージはなくても良い
建築雑誌を読むと必ずはじめに「どんな家に住みたいかイメージをはっきりさせる」などと書いてあります。しかし、初めからこんな住まいとイメージをもっている人は少ないように感じます。各部屋または個々のイメージは持っているかもしれませんが、イメージをもたなくても建築家や設計者からの提案を楽しみながら待つという選択肢もあります。「私たち家族はこんな感じですが、どんな住まいが似合いますか?」となげかけて、計画案を提案してもらってもよいのです。施主が、にわか勉強しても専門家にはかないません。どんな新しい生活をすすめてくれるのか、提案を受け入れることも人生で一番大きな買い物の醍醐味と言えるでしょう。
相見積りは本当に必要なの?
住まいづくりを始めてここまで約6カ月位です。ここまでというのは間取りが決まり、図面ができるまでです。これから約3週間かけて施工会社が見積り金額を集計し、工事見積りをまとめます。ここでは建築家に依頼したケースを考えています。ハウスメーカーあたりだと、ある一定の基準数や金額がまとまっているので早いかも知れません。
見積りというと、これも雑誌等では「相見積り」をとると良いと書いてあります。私のこれまでの経験上、図面がしっかりしていれば2000万円台の住まいで相見積りを行っても、あまり差は出ません。3000万円台になれば会社の規模によって多少の差がでてきます。施主の方々からすれば勿論少しでも安い方が良いと思いますが、私は仮に相見積りをし、比較した場合でも必ず安い方を選ぶという事はしません。それよりも建物を引き渡した後、ずっと面倒見の良い会社なのか、そうでないのかも判断材料のひとつにします。
家づくりは建った後から本当の付き合いが始まるとも言われます。ロングライフな視点が重要で、長い眼でみると安いということがあるのです。
家は住んで育てていくという考え方もある
施工会社が決まったら、約4カ月半~5カ月で建物は竣工します。最近は2カ月半位で建物が竣工する工法もあります。大工職人が不足しているので、ハウスメーカーなどは自分の会社で職人を育てる、あるいは出来る限り構造躯体を大型パネルなどでつくる工法を開発し効率化しています。しかし、やはり手間をかけてひとつひとつ心を込めた住まいには愛情を感じるし、大切に手入れをしていこうという心構えも生まれます。時間は多少かかってもそんな住まいづくりをしていきたいものです。
最近の現場ではあまり水を使いません。つまり左官工事が少ないのです。その理由は、水を使うと工期が必要だったり、水加減によっては材料が収縮してクレームになることを恐れるからです。外壁に乾式のサイディングが採用される理由も湿式のモルタルはひび割れを起こしてクレームになるからです。
住まいづくりを楽しむ
注文住宅は一つ一つすべて最終的には自分で決めていかなければなりません。約1年間も手間をとられます。しかし、一生に一回です。大いに楽しんでこだわりの住まいづくりをし、たくさんの経験をすることで改めて家族の絆も深まっていくことでしょう。
―用語解説―
・湿式工法…現場で水を混ぜながらつくったモルタルや珪藻土などの材料を使う工法。
・乾式工法…水は使わず、乾いている材料を現場に持ち込んで組み立てたり引っ掛けたりしていく工法。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。