家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
省エネ住宅はココが肝
コストバランスを考えて
4月の気候サミットで、日本は9年後の2030年までに2013年度比で46%の温室効果ガス削減を宣言しました。世界がカーボンニュートラル※1に向けた取り組みを進める中、我が国の住宅産業もその流れから逃れることは不可能であり、住宅に求められる役割もとても大きいのです。今後は住宅に関わる企業はもちろん、建てる側も「まだ9年後もある」「いずれ条例が決まったら対応すれば良い」と考えずに、今から出来ることをするといずれ建てる側の利益にもなっていくのです。例えば、省エネ設備機器等を設置する時は、若干価格が高くてもランニングコストは大きく低減したりします。それらのコストバランスを考えながら導入していくと良いでしょう。
※1カーボンニュートラルとは・・・地球上に存在するCO2(二酸化炭素)の総量が増えたり減ったりしない状態を表す考え方
省エネ住宅はこの3つを考える
省エネ住宅に取り組む方法は太陽光発電、断熱材、高効率機器の採用など、さまざまありますが、現時点では次の項目を考えておくと良いでしょう。
①断熱材
②窓
③設備機器(エコキュート)
以上の3つです。
①断熱材について
断熱材の種類は鉱物系ではグラスウールやロックウール、石油系では発砲プラスチックや硬質ウレタンフォームなどがあります。天然素材もあります。おすすめは天然素材のセルロースファイバーです。紙からリサイクルされたものなので、一本一本の細かい繊維が絡み合うことで空気の層をつくりますので、熱や音を伝えにくくするのです。無機繊維系の断熱材は繊維内部に空気胞を持たないので高い断熱性能を発揮できにくいのです。さらにセルロースファイバーは、断熱・結露・耐火・吸音・撥水・防虫にも優れ、ライフサイクルCO2の排出量も極めて少ないのも特徴です。コストは他の断熱材よりは若干高く、延床面積110㎡(木造2階建て)位で80万円位を目安として考えておいて良いでしょう。省エネはもちろん、住まいの快適性をつくる要素としても最も重要なのは断熱材です。近年は長持ちする住まいづくりを目指しますので、特に留意して選択していく必要があります。
②窓について
窓の役割は採光だけでなく、熱の通り道でもあります。真夏の冷房中に窓から入ってくる熱は約70%で、真冬の暖房中に窓から逃げていく熱は約50%です。つまり、窓をどう考えるかも省エネ住宅の大きなポイントなのです。近年は、複層ガラスが一般的になりつつあります。しかし、より高い省エネを目指すのであれば、リビングルームなど家族が長く使う部屋だけでも内側に追加でインナーサッシを取り付けるとか、トリプルガラスにするとよいでしょう。さらにガラスと窓のフレームの選択も重要なポイントです。ガラスはエコガラス(Low-Eガラス)にすることです。Lowは下げるという意味を表わしており、ガラスにコーティングされたLow-E膜が太陽の熱や部屋を暖房で暖めた熱を吸収・反射するのです。北側の窓には高断熱複層ガラスを、南側の窓には遮熱複層ガラスを採用すると良いのです。また、窓のフレームがアルミサッシだと熱を伝えやすいので、外側はアルミサッシにして、内部は樹脂とした複合サッシにすると良いでしょう。
③設備機器(エコキュート)について
エコキュートとは電気を使ってお湯を沸かす給湯器のことです。電気代の安い深夜に電力を使用するため光熱費が安く、さらに空気という再生可能エネルギーを使用していることも大きな特徴です。始めの設置費用がガス給湯器と比較すると高いですがランニングコストを考えていくとトータル的には安くなります。
新しい冷暖房システムの考え方
断熱材と窓で建物躯体の性能は高めたとしても室内の冷暖房をどのようなシステムにするかも省エネ住宅を目指す上ではとても大切なポイントです。
一般には各部屋一台のエアコンを採用しています。あるいは全館空調システムを採用して温風や冷風をダクトを使って各部屋に届けるシステムもあります。ただこのシステムは導入費用や光熱費のランニングコストがかかるのがネックでした。そこで最近同じ全館空調システムではありますがダクトを使わないシステムが注目されてきました。YUCACO(ゆかこ)システム※2といってルームエアコン1台で温冷風を電動ファンで住まい全体に送るのです。家中どこにいても快適な温度が維持できる全く新しい省エネルギーなシステムです。全館空調は空調システムが故障した場合は家中の空調全部がきかなくなるなどのデメリットもありますが、これからの新しい冷暖房の道標にはなるかもしれません。ちなみに設置費用は延床面積約40坪で100万円位を目安に考えておくと良いでしょう。
※2一般社団法人YUCACO推進機構 YUCACOビルダーズクラブ
http://yucacosystem.co.jp
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。