家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
快適で健康にする寝室
健康な生活は寝室を充実させること
家の中で最も長い時間を過ごすのはダイニングやリビングより、寝室かもしれません。
これまでの家づくりではパブリックスペースはよく検討されてきましたが、プライベートスペースである寝室は「どうせ寝るだけの部屋だから」といって軽視されてきました。
設計で打合せをしていても、ダイニングやキッチンへの要望はしっかりとメモ項目があるのですが、寝室についてはあまり要望が無い施主が多いように感じます。
健康な生活をおくるためには寝室の環境を整え、いかに質の高い睡眠を取るかが大切です。睡眠不足は注意力や集中力の低下、生活習慣病などを引き起こす原因にもなります。ITの発達によって、よりスピードが求められる社会になった現代。これからは睡眠の重要性がより増していくのではないでしょうか。
快適で健康にする寝室のつくり方
住まいづくりにおいて、良好な睡眠を得るためには次の7つのポイントを抑えて計画することが大切です。
①寝室の配置は東あるいは北東の位置に設ける
人間は朝日を浴びることで体内時計のズレを修復させ、ホルモンが正しい時間に分泌されやすくなります。体内時計は細胞を生まれ変わらせる成長ホルモンを制御しています。しかし、体内時計は機械のように正しく刻んでいるわけではないので、毎日少しずつズレが生じるのです。このズレをリセットする方法が朝日を浴びることなのです。当然寝入りする時間も修正されるので、寝付きがよくなって毎日快適に眠れることにつながっていくのです。
②室温は25℃、湿度は45~55%が理想
良い睡眠を得るには、布団の中の温度を皮膚表面温度に近い33℃にすることが良いと言われています。33℃をキープするには室温を25℃前後保つことが必要なのです。また、室温が25℃以上で湿度も高いと、暑く感じ不快になるので、湿度は50%を目安にすると良いでしょう。
更に夏と冬もあわせて考えてみると、
■夏は夏用寝具、パジャマ着用で眠る場合
室温26℃、湿度は50%前後で設定。
夏は夜間になっても熱が建物の中に蓄積したままなので、寝室はすぐには冷めません。そのため就寝の1時間前位から部屋を冷やしておくことがポイントです。
■冬は冬用寝具・パジャマ着用で、眠る場合
室温16~19℃、湿度は50~60%が目安。
冬は寒くて眠れないという人と同じくらい、冬なのに蒸し暑くて寝苦しい思いをしたという人もいます。冬は冷えだけでなく、暖め過ぎにも注意が必要なのです。
夏冬に共通していることが室温のコントロールです。これには室内の気密性と断熱性が重要です。特に窓ガラスは複層Low-Eガラスを採用して断熱と遮熱に対応するようにしておくことが大切です。
③湿度のコントロールは内装仕上げで
一般に床材は積層合板で固くて傷が付きにくい材料を選びます。しかし、多少柔らかく傷が付きやすくても杉の無垢材(厚さ12~15mm)を使用することをおすすめします。調湿機能もあり、温かみもあるので素足で歩くと、とても気持ちが良いです。多少の傷は思い出と経年美をつくってくれます。天井にも杉の無垢材を張ってもうるさく感じません。壁は珪藻土(ケイソウド)にして調湿を図ります。湿度は50~60%に保つようにするとよいでしょう。
④室内には2箇所の開口部で空気の流れをつくる
窓の位置は対角線上に設けることが基本です。湿度のムラを解消するためです。しかし間取りの関係や、周囲の環境によって無理な場合は高窓、または地窓にして、更にそれでも無理な場合は換気システムを採用する方法もあります。
⑤音のレベルは40デシベル以下とする
ゆっくり眠るには静かな環境を手に入れることが大切です。もし外部からの音が気になる様であれば、壁の断熱材にセルロースファイバーをおすすめします。一言で言うと古新聞を細かく刻んだものですが、かなりの吸音性があります。断熱性能も他の断熱材より優れています。
⑥色や照明計画も重要です
壁紙やカーテンなど、内装材は出来る限り彩度を抑えた色使いをすることです。人間の身体は光や色によって筋肉反応を起こしてしまうので、鮮やかな色使いだと落ち着かなくなるのです。安心や安らぎを与えるベージュ系やパステルトーンの色を選ぶとよいのです。照明も直接目に入ってこない間接照明にし、明かりは電球色で調光できるように計画することです。
⑦寝室にはあまり物を置かないこと
テレビやパソコン、スマホなど「寝る前にちょっと」という人がいるかも知れません。より快適に睡眠をとりたいのであれば寝室にはあまり物を置かず、シンプルなインテリア空間にすることです。
ミニ解説
・体内時計
人間には1日周期でリズムを刻む体内時計が備わっています。意識はしなくても日中は体と心が活動状態に、夜間は休息状態に切り替わります。
・窓の性能
窓はガラスとサッシに用いる素材で大きく性能が異なります。一般にアルミサッシですが、これは最も熱を伝えやすい素材です。そこでアルミサッシと樹脂を使用した「複合サッシ」や「樹脂製サッシ」、「木製サッシ」などが登場しました。これらは一般に使用される窓に比べて約3倍の断熱性が得られます。
・湿度
日本は高温多湿の国です。間取りの計画は「湿度をどう逃がすかを考えることである」と言う研究者もいます。欄間、地窓、高窓などを活かして湿気対策もあわせて計画すると良いでしょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。