家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
すまいの相談から(後編)
前回に引き続き、これまで受けた相談の中から参考になる事案をピックアップしてお届けします。
主な相談内容から
①工事変更の内容が現場に伝わっていなかった
②工事期間中に施工会社から見積り落としがあったので、その費用を認めてほしいと連絡を受けた
③引き渡し前になって追加工事費の説明を受けた
④見本と外壁の色が違うような気がする
⑤図面ではわからなかったが、階段が急で少し心配
⑥隣から換気扇の臭いでクレームを受けた
⑦竣工後、敷地の水はけが悪いことに気づいた
⑧共有名義の割合はどうしたらいいか
以上、8つの相談に対して回答及びアドバイスをします。
① 工事変更の内容が現場に伝わっていなかった
現場監督に工事の変更をお願いしていたのに、現場の大工さんには伝わっていなかったため、そのまま工事が進んでしまった。
【回答】
実際に工事が始まると様々な職人さんが出入りし、資材や設備の運び込みなどもあるので、人や工程管理が非常に重要になってきます。その役割を担うのが現場監督というわけです。相談のような、変更の指示が現場にうまく伝わっていないとしたら、現場監督の責任になります。現場確認をする際にも、変更内容がはっきりしていないとさらに揉めることになります。変更内容については、必ず文章にして残しておくことを忘れないでください。現場において、スムーズに工事が進むかどうかは、すべて現場監督の力量に大きく左右されるのです。
② 工事期間中に施工会社から見積り落としがあったので、その費用を認めてほしいと連絡を受けた
【回答】
小さな金額であれば、施工会社も全体費用の中でやりくりするでしょう。費用を「認めて欲しい」というのは、それなりに大きな金額です。しかし図面もあり、契約も済んでいるのであれば、原則、認める必要はありません。ただし、それまで誠実に工事を進めており、竣工後のメンテナンスもあるので「少しだけ認めてあげたらどうか」とアドバイスをしました。
③ 引き渡し前になって追加工事費の説明を受けた
住まいは着工前によく検討したつもりでも、いざ工事が始まり、現場を見るとつい「こうすればよかった…」と後悔するものです。そこで追加工事費が発生します。
【回答】
追加工事・変更工事を行うなら、現場監督と事前によく打ち合わせをして、どのくらいの費用が別途でかかるのかを確認したうえで、取りかかることです。合意事項は文章にして、後の「言った」「言わない」といったトラブルの防止にもなります。
④ 見本と外壁の色が違うような気がする
小さな見本帳で見た場合と、実際に大きな面で見た場合とでは、同じ色でも印象が異なります。
【回答】
指定した品番と違う場合は、やり直しの請求ができます。色選びは部屋の中で見た場合でも異なって見えます。色選びは難しいので迷ったら建築家から助言を受けたり、実際同じような色を使った建物を探して参考にするといいでしょう。
⑤ 図面ではわからなかったが、階段が急で少し心配
図面は平面なので、高さがわかりづらいです。小さな子供やお年寄りがいる場合は、設計段階から確認しておくことが必要です。
【回答】
階段1段の高さ(けあげ)は、建築基準法で23㎝以下、ふみ面は15cm以上と定められています。仮にこの数字に近い寸法であれば、とても急な階段になってしまいます。目安としては、けあげ20cm以下、ふみ面は25cm以上で考えておくと昇り下りが楽です。さらに広さに余裕があれば、階段の途中に踊り場を設けたり、折れ階段にすることをおすすめします。
また、夜の利用時に危険がないよう足元灯をつけたり、照明器具のスイッチを3路スイッチ※にしておくと便利です。※3路スイッチ→1つの照明器具に対して複数のスイッチで操作できるようにするもので、例えば1階と2階でON・OFFの切り替えができる。
⑥ 隣から換気扇の臭いでクレームを受けた
台所の換気扇位置の関係で、隣家のリビングに排気が流れ、クレームを受けた相談です。こういった目に見えないものは、竣工後に問題となることが多いです。
【回答】
よくある問題として、窓の位置が挙げられますが、音や換気も注意が必要です。まずは隣家に伺い、どの程度の臭いがあるかを施工会社の人と一緒に行って確かめることです。仮に自分では「大した程ではない」と感じても、感じ方は人それぞれなので、隣の人にしてみれば「耐えられない」ということもしばしばです。そうなると、換気扇の位置を変えるしかありません。変更するのではあれば、変更位置で排気が流れていかないか確認をし、位置を変更しましょう。
⑦ 竣工後、敷地の水はけが悪いことに気づいた
分護地を購入して家を建てたのですが、雨が降ると敷地のあちこちに水たまりができます。
【回答】
現在、地盤調査は義務付けられているので、地盤の状態を確認することができます。地盤状態が思わしくない土地であれば、その調査で地下水位がどのくらいの高さなのかもわかります。設計段階で基礎を高くしたり、防湿コンクリートを床下全面に打ったりすることができます。敷地の水はけが悪い土地は、施工会社と相談して対策を講じれば解決できます。重要なことは、建物下の地盤をしっかり確認し、設計者や専門業者からアドバイスを受け、十分な対策をすることです。
⑧ 共有名義の割合はどうしたらいいか
夫婦それぞれで住宅ローンを借りて家を建てる場合、持分の割合を決めておく必要があります。
【回答】
建物の取得にあたり、夫婦それぞれが資金を出す、或いは住宅ローンを組む場合は、土地・建物の名義を「共有」にしておく必要があります。どちらかが一方だけの名義にしていると、他方の負担分が贈与にあたるとみなされるからです。
共有の割合は実際に負担した金額がベースになります。例えば3000万円の建物について夫が2000万円、妻が1000万円を負担にするのであれば、3分の2が夫、3分の1を妻となります。
もしはっきりしない時は、夫婦それぞれの収入を基準とするのが一番簡単かもしれません。つまり、基本の考えは合理的に説明できる方法でわけるということです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。