家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
長く住める家と長く愛せる家はどうつくる
日本の住宅の平均使用年数は26年~30年
一戸建て住宅を建てる平均年齢は40歳前後です。丁度40歳前後が子どもの成長に伴って家族形態に変化が起きるからでしょうか。日本人の平均寿命を考えれば住まいは40~50年は長持ちさせたいものです。しかし現実は、日本の住宅の平均使用年数は26年~30年くらいです。これでは70歳代でもう一度家を建てなくてはなりません。そうならない為に、新築時にどんな計画をしておけば良いのでしょうか。
日本の住宅の平均使用年数はなぜ短いのか
フランスやドイツなどの住宅の平均寿命は70~80年です。では、なぜ日本の平均使用年数は短いのでしょうか。その理由は主に次の5項目が考えられます。
①ライフスタイルの変化に対応できていない
家をつくるきっかけの主な理由が子どもです。したがって、子ども中心の間取りになり、やがて子供が独立していくと使い勝手が悪く、リフォームしようにも容易にリフォームできる様な構造になっていません。
②これまでの住まいづくりは“質より量”が重視されてきた
戦後の住宅不足からその需要にあわせるため、大量の住宅をつくってきました。そのため“質より量”を優先し、耐震や性能の面で長持ちする住宅をつくってきていません。
③土地だけの売買が活発にされてきた。
土地価格が上昇し価値が高くなる一方で、建物の価値は低くなり、建物に価値を見出してこなかったため、土地を売るために土地の上に建っている古い建物は壊されてきました。
④中古住宅市場が確立されていない
住宅の寿命が短いので、中古住宅としての価値はない。住宅先進国の家は平均耐用年数が長いので、中古住宅売買が活発です。
⑤住宅性能が低く快適性がない
日本の住宅は先進国と比べて住宅性能が低く、夏は暑く冬は寒い家になるので、快適性がとても悪く長く住めません。
主にこの5つが住まいの平均寿命年数を短くしているのです。そうであればこの5つをヒントに長く住める家を計画すればよいのです。
長く住める家は長く愛せる家でもありたい
5つの理由の中にヒントを探すのであれば、新築計画の際、次の3つをしっかり計画しておくことが長く住める家になるのです。
・ライフスタイルの変化に対応できる間取りを考えておく
・耐震、耐久性など構造体をしっかりつくる
・室内の温熱環境等、住まいの性能や快適性を高めた工夫をしておく
さらに具体的に解説すると
「ライフスタイルの変化に対応できる間取りを考えておく」ということは次の様なことです。
新築計画の段階で、将来子どもが独立していった際、どの様な使い方をするのかボンヤリとイメージしておくことです。例えば、子ども部屋2室を1室にできるように壁は容易に壊せる構造にしておくことです。耐力壁にしておくと壁を壊すことが出来ません。その他電気関係、(スイッチコンセント、エアコンのレイアウトなど)もあらかじめ対応できるよう、配線しておきます。
「耐震、耐久性など構造体をしっかりつくる」とは次の様なことです。
はじめに、しっかりとした構造体をつくるには、出来る限り1階と2階の柱の位置を合わせておくことです。さらに、一般的に耐力壁は筋違を入れてつくりますが、合板を入れることでもつくれます。合板にしておくと、将来そこに手すりをつける際、下地にもなってくれるので、とても重宝します。
「室内の温熱環境等、住まいの性能や快適性を高めた工夫をしておく」
よりよい温熱環境をつくるには気密性や断熱性が重要ですが、なかでも窓の大きさや位置、そして性能の選択が大切です。近年の窓は2枚のガラスの間に中空層を設けた「複層ガラス」を基本として、特殊金属を用いて省エネ効果を高めた「高断熱複層ガラス」「遮熱複層ガラス」があります。更に、サッシの枠もアルミではなく樹脂サッシなどは熱を伝えにくく、結露が起きにくいです。
ガイド佐川旭からのメッセージ
日本人の平均寿命を考えれば40~50年は長持ちする家をつくりたいものです。私は物理的寿命(耐久性など)は問題ないと思います。問題となるのは生活的寿命(ライフスタイルの変化)と心理的寿命(心地よい快適さを生むデザインされた住まい)です。生活的寿命も将来に向けてプチリフォームできるように計画の段階で考えておけばこれも大丈夫です。あとは心理的寿命です。この寿命の中には施主の想い、そして住まいをつくる時だけ真剣になるのではなく、育てていくという気持ちも持ち合わせていることが大切です。
長く住める家というのは長く愛せる家でもなければなりません。
そうするには建物から与えられるデザインもありますが、自分の生き方を伝え、その生き方自身も住む家にすまわせておく必要があります。私はそれがde sign(デ サイン)と考えております。deは決定していくdecideのdeであり、signは印(しるし)です。つまりデザインとは自分の生き方を決定していくことと理解してみてはいかがでしょうか。
ミニ解説
・温熱環境
人が温熱的に快適と感じるものは、暑くも寒くもない状態です。それが何℃と言われても正解はありません。個人差があるからです。ただ一般的に、冬期は20~24℃(湿度40~60%)、夏期で25~27℃(湿度50~60%)が快適と言われております。出来る限り、暑さ寒さのストレスから開放された省エネの家づくりを心掛けることが現代社会では重要なことです。
・高断熱複層ガラス
日射熱は取り込み、暖房熱は室内に反射するので、寒冷な地域に適しています。(北側の窓に採用するとよい)
・遮熱複層ガラス
日射熱をカットし、室内温度を逃さず日射の影響を受けにくいので、冷房効果に優れます。(西側の窓に採用すると夏の西日に効果があります)
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。