家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
間取りのうっかり失敗
うっかり失敗は住んでから気づく
家づくりでの楽しみは間取りを考えることです。
これは建て主のこれまでの体験と希望をふまえて打ち合せをしながら設計士がリードして決めてきましたが、近年はお客様の満足度を高めるということで建て主の意見をなるべく多く聞き入れる傾向にあります。勿論それは良いことなのですが、仮に担当の設計士が積極的なアドバイスをしなかったり、傾聴をおこたるとうっかり失敗につながることになります。
ミスや失敗は受け取り方によって様々です。特に音や熱環境は人によって感覚が違うものですので、確認の意味も込めて丁寧に打ち合わせを重ねていくことでミスや失敗を防ぐことができるのです。
うっかり失敗は住んでから気がつきます。したがって事前にうっかり失敗しやすい所を調べリストにまとめておくと良いでしょう。
うっかり失敗はこんなところです
ここ10年間のうっかり失敗を調べると主に次のような10の失敗例が挙げられます。
具体的にはどんな事例がありますか
①配線・コンセントの失敗例
・リビングの照明スイッチが、開けた扉の裏に隠れる位置にある。
・玄関の照明スイッチが、外出の際、靴を履いた場所から、手が届かない位置にある。
・家具の裏側にコンセントがあり使えない。
・掃除をする際のコンセントが考えられていないので不便。(とくに掃除機)
②収納の失敗例
・子どものアウトドア関係の物を入れる収納スペースがなく、居間の片隅に置くことになり片付かない。
・天井までの壁面収納にしたが、天井の照明と扉があたり全開しない。
・二段パイプのクローゼットにしたが、下段のパイプが低いためジャケットが床に触れる。
③広さの失敗例
・ダイニングを広くするためにキッチンと背面の食器戸棚の間のスペースをできる限りコンパクトにしたが、使い辛い。最低でも90cm以上確保すべきだった。
・階段下のトイレにしたが、有効幅と座面前方の空き寸法が狭く、このスペースだと介護ができないと後で知った。
・敷地の関係でベランダの奥行きを80cmとしたが、風が強い日は洗濯物が壁に触れてしまう。風のことは想定していなかった。
④明るさ・温度(熱)の失敗例
・北向き玄関のため結露を考えて窓を設けなかったが、やはり暗くてジメッとする。窓ガラスや換気扇などを設けるべきだった。
・開放的な空間にするためにリビングイン階段にしたが、構造上温かい空気は2階に上がってしまい、冬は寒く感じる。夏と冬、両方の対策を考えておくべきだった。
⑤音・臭いの失敗例
・オープンなリビング・ダイニング・キッチンのため、部屋中に臭いが広がってしまう。もっと換気計画に配慮すべきだった。
・寝室の位置が、隣家の駐車場の横にあるので、自動車の排気ガスの臭いやエンジンの音、ドアの開閉の音が気になる。気密や遮音ボードなどを考える必要があった。
⑥視線の失敗例
・リビングの掃き出し窓とトイレの窓が一直線上にあり、トイレに入る姿が外から見られてしまうのでプライバシーに欠ける。
・2階の子ども部屋の窓と隣家のトイレの窓が向かい合わせになってしまった。さらに換気扇の音も気になる。
⑦動線の失敗例
・スペースの関係上、食品庫をキッチンから離したところに設けたが図面で考えるより使い勝手はよくなかった。
・2階に浴室を設けたが、子どもが泥んこになって帰ってくると、玄関から浴室までの床や階段に砂や泥が落ち、掃除が大変。
⑧サニタリースペースの位置での失敗例
・ダイニングの近くにトイレを配置したが流れる水の音が聞こえてしまう。
・キッチンの上階にトイレがあり排水音が気になる。
・トイレに直接入る扉をなくし、すっきりコンパクトなサニタリースペースにした。意外にも入浴中に子どもがトイレに行くことが多く、不便さを感じる。
⑨ドアの位置と開閉方法の失敗例
・玄関収納の扉がシューズを取る方に開くので一旦玄関のタタキに降りてとらなければならないので不便。開閉方法を工夫すべきだった。
・吹き抜けなので温かい空気は2階にたまることは承知していたが、引き戸などを設けてもっと風のコントロールをできなかったのかと竣工後に反省した。
・浴室の扉は折り戸にしたが、浴室の折り戸は子どもの力ではあけづらかった。
⑩照明の位置の失敗例
・寝室のダウンライトの位置がベッドに寝転んだ際に頭上にあるのでまぶしく感じる。足元の位置にすべきだった。
・玄関の照明は買い物で両手がふさがることが多いため、人感センサーにしておけばよかった。
・キッチンの天井灯の位置が悪く、自分が影になって手元が暗く、作業がしづらい。
うっかり失敗をしないための心構え
上に挙げた具体的な失敗例は、構造的な大きいミスではありません。打ち合わせの際にしっかり確認すれば、ほとんどは防げるものばかりです。
特に確認してほしいところは、光、風、音、臭い、熱、土の中などです。これらに共通しているところは、目には見えないから想像しにくいので気が回らないことです。失敗やミスは家族の受け止め方によっても違います。ある家族は大丈夫でも別の家族では大事になるケースもあります。
自分たち家族の生活の仕方、考え方などを打ち合わせのたびに十分に設計士へ伝え、アドバイスを受けながら進めていくことです。仮に現場途中で気がついたり、一部変更となった場合でもすぐに対応できるような人間関係を築いておくことが重要なのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。