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建築の知識アドバイス

専門家のアドバイス
佐川 旭

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建築の知識
アドバイス

一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所
佐川 旭

2015年10月号

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。

家づくりに適齢期はない、ほしいときが適齢期

平均年齢は40.4歳

 家づくりにあたっては、しばしば適齢期ということがいわれます。結婚からある程度の年月が経ち、子どもができ、そろそろ子どもたちを育てるのにふさわしい住まいを手に入れたい・・・・と考えて建設、購入される人が多いからではないでしょうか。年齢的には、30歳代から40歳代にかけて、特に30歳代後半あたりが適齢期といわれるようです。

 2014年度に住宅金融支援機構の「フラット35」を利用してマイホームを購入した人たちの平均年齢を見ると、注文住宅、建売住宅、マンション等全体で40.4歳でした。子どもの年齢を考えても、そろそろ小学校入学を控えている世代で、入学までに子どもたちの故郷となるエリアを決めて、住まいを持ちたいと考える人が多いのです。

 40歳前後であれば、なんとか退職時あたりにはローンを終えられる可能性が高いといった事情もあるのかもしれません。

70歳で家を建て替える人もいる

 反対に、かなりの高齢になってからでも、家を買ったり、建てたりする人がいます。特に、すでに一戸建てを持っている人が、人生の仕上げとして自分たちがほんとうに満足できる住まいに建て替えたいと実行に移す人が少なくありません。住宅展示場などのセミナーで講演することがありますが、明らかに60歳を超えているとみられる人も多くいます。子どもと一緒に二世帯住宅に建て替えたいという人が中心ですが、そうではなく、夫婦だけの住まい、という人もいます。

 私はこれまで200軒の個人住宅を設計してきました。その中でのエピソードですが、数年前にご主人を亡くされた70歳の女性が、ひとり暮らしなのに家を建て替えたいと相談に来られたことがありましたが、正直いってなんでいまさらと驚かされました。

 しかし、ご婦人には明確な理由がありました。若いころに観た映画のらせん階段のある住まいのワンシーンが忘れられないというのです。あんな空間に暮らしてみたい、いつからせん階段のある家を建てたいとずっと思い続けてきたそうです。若いころは、予算的制約もあり、家族の部屋などを用意しなければならないため、そんな夢はとても叶うものではなかったけれど、いまなら可能だし、いましかそのチャンスはないと決意されたのでしょう。

 そんなお話をお聞きしながら、始めは「なんで70歳の方が」と思ってしまった自分の狭隘(きょうあい)だった考え方を反省し新しい視野を開かされたような気がしました。相談に応じている自分のほうが、住まいとは何か、もっと大げさにいえば人生とは何かという生き方を教えていただいたような気がしました。ひとり暮らしのお住まいですから、誰に気兼ねすることもありません。ご本人のご要望を最大限に取り入れて設計をしました。建築家としてもそんな住まいは初めてのことで、貴重な体験をさせていただきました。

 そして完成後、竣工パーティに呼ばれた時、そのご婦人は、赤い帽子をかぶってらせん階段を優雅な足どりで下りてこられ、私を迎え入れてくれました。私も夢のお手伝いができたという満足感で胸がいっぱいになり、お金にはかえられない充実感をいただきました。
 「あと何年生きられる」「もったいない」なんて野暮なことは言わないで下さい。これこそ、家づくりそのものがまさに生き方を表現している格好のケースではないでしょうか。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

佐川 旭Akira Sagawa一級建築士

株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/

「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。