家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
実例、すぐ活かせる使えるアイデア
コストをかけずにオリジナリティー溢れる住まいをつくる
自分の家を持つということは、ある意味世界でただ一つの住まいをつくることが出来るということでもあります。しかし、現実には予算の関係やそれほど拘りを持っていない、面倒くさい等の理由で画一的な住まいを求めてしまう人もいます。
住宅は殆どの人にとっては一生に一回の買い物です。ちょっとしたアイデアで、コストもあまり掛からず出来ることは沢山あります。今回はその一部を紹介します。
外まわりで注意しないとデザインが台無しに
■ガスメーターの位置を考える
誰もがデザインや仕上げ材には関心が高く気を使いますが、関心が薄いのが設備関係です。
特にガスや水道などのメーターについては、位置によってデザインが台無しになることもあるので、一番はじめに注意しましょう。
意外とミスが起きやすいのが水道メーターです。道路下の本管から引き込みますので、道路に近いところにメーターボックスを配置します。一方、玄関アプローチも道路からの繋がりでもって計画しますので、玄関アプローチのタイル上に水道メーターのボックスが設置されてしまうことがあるのです。
次はガスメーターです。電気メーターは自由化に伴いスマートメーターが普及され、最近では電気検針員さんの姿を見なくなりましたが、ガスに至ってはまだ検針を実施しています。ガスメーターの位置によっては敷地内に入ってくるケースもあります。もし道路から数値を読み取ることが出来れば、敷地内に立ち入ることはなくなります。
写真はポスト用門柱にメーター用の開口部を設けた例です。
内部での工夫やアイデア
■エアコンを目立たなくする
日本の住まいでドーンと鎮座しているのが、神棚や仏壇ではなくエアコンです。それも目立つところに設置されることが多いです。木枠ルーバーで隠す、或いは壁をへこませて設置するだけでも空間をスッキリさせることができます。
■窓際に収納型物干しを設ける
長雨や空模様が不安定な時、或いは仕事からの帰りが遅い時など屋外に洗濯物を干せない場合があるでしょう。そんな時は南側の開口部付近に電動物干しを設置しておくと便利です。電動で昇降するので、干す時も取り込む際も容易に作業ができます。寝室、子供室、家事室、和室などに設置すると良いでしょう。
■戸袋フタをつける
近年は住まいの気密性が向上した影響で、大きな空間をつくって間仕切り引き戸で用途に応じた使い方をしている実例を見ることがあります。その際気になるのが戸の木口の納まりです。できればスッキリとさせたいです。戸袋フタをつけることでホコリの侵入を防ぎ、引戸が収納されている時に戸袋フタを閉じることで、空間の一体感を演出してくれます。戸を閉めている時は戸袋のフタは引戸のストッパーの役割を果たします。木口を隠すことでスッキリし、ホコリの侵入を防ぎます。
■レバーハンドルの持ち手を木製にする
乾燥した冬場に扉を開ける際、静電気が起きて思わずレバーハンドルから手を離した経験は誰にでもあるでしょう。そこでレバーハンドルの持ち手を木製にしてみてはいかがでしょう。アルミやステンレスと違い、握った際冷たくなく、見た目にも温かさが伝わってきます。
■手摺のデザインを考えてみる
一般的な手摺は丸棒です。かつ、支える受け材は金物、丸棒をつなぐ部材も金物なので、画一的で人工的な印象を受けます。手摺に拘るだけでも、階段の印象は全く変わります。写真は既成品で積み木を連想させる手摺を採用してみました。竣工後、ご夫婦から子どもが階段の手すりをとても気に入って階段から中々降りてこなくて困ったという話を伺いました。
■ミニ収納は意外と便利です
施主からリビングに仏壇と神棚を置きたいので、床から20cmほど上げて、下台を設けてほしいと依頼されました。下部に20cm弱のスペースができたので、お掃除ロボットが入る収納庫をつくりました。
■洗面所の備品は10cmで納まります
洗面所に置くシャンプーや化粧瓶、詰替え用の洗剤等の必需品の奥行きは全て10cmで納まります。ボトル類も1列に並べられるようにすれば、取り出しやすく、またストック量もひと目でわかるので、無駄な買い物を防げます。
10cmの壁の隙間を活かして、収納ボックスを作りました。
佐川旭のメッセージ
これからの住まいづくりは、長持ちする住宅は勿論、そこに自分らしい「物語」を大切にした住まいづくりの考え方も大切になってくるでしょう。例えば、骨董市で購入したドアをどこかに使う、家族みんなで壁を塗った、足型をコンクリートに残す、子どもの頃に遊んだ木を使う等です。つまり物理的寿命ばかりでなく心理的な寿命もあることで、住まいに愛着が生まれ長持ちするのです。
特別で斬新なデザインではなく、ちょっとしたデザインを試みて下さい。それだけでも自分らしい住まいになってくれるはずです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。