家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
心地良い美しい空間をつくるヒント
はじめに
注文住宅の醍醐味は、何といっても自由に間取りを考えてつくれることです。ただ、自由だからこそ選択肢が広がることで迷いが生じます。そこで、一般的に近年はどんな間取りが人気で、どんなことに失敗しているのかチェックしてみました。そのうえで間取りを考える際のキーワードと、美しく仕上げるためのコツをまとめています。空間は水平ラインを揃えたり、素材を変えるだけでもとても気持ちの良い佇まいが生まれたりもします。一緒にチェックしていきましょう。
間取りの前に土地選びはどう考える
「どういう住まいが欲しいか」という前に、土地を確保しておかなければなりません。仮に土地から探すとなると、これは住まいをつくるより難しいと言えます。というのも土地選びはその人の人生や価値観までも表わすからです。自分だけの判断で難しい時には不動産会社のアドバイスは勿論、建築家の方と一緒に様々な議論をして考えを整理すると良いでしょう。建築家は周辺環境と併せて、生活設計や土地の情報などいろいろな角度で不動産会社に質問するはずです。その質問や答えから自分達のライフスタイルもおぼろげに見えてくることもあるでしょう。そして、それを間取りに活かせれば理想の家づくりができそうです。
間取りで関心が高いのはどんなところ
ここ2・3年間の住宅雑誌やインターネットで調べてみると次のようなところに関心が高いようです。
①オープンキッチン
②対面式キッチン
③パントリー
④ウッドデッキ
⑤畳コーナー
住宅の断熱性が向上してきたので、あまり区切らないオープンな空間を求める傾向にあるようです。また、パントリー、大型冷蔵庫の設置等が多く見受けられます。ウッドデッキはリビングの延長として、畳コーナーは多目的スペースとして利用しています。
失敗するのはどんなところ
失敗するところは、ここ10年以上それ程大きく変わっていないように感じます。特に、電気関係のスイッチやコンセントの数や位置などは生活シーンをしっかりチェックしておくことが大切です。
①電気配線の失敗
②収納スペースの考え方の失敗
③熱環境の失敗
④動線の失敗
⑤視線の失敗
この中で熱、動線、視線はどれも目には見えないので失敗が起きやすいです。これら以外にも音や匂い、そして光と風なども見えません。なかでも居心地に特に関係してくるのが光と熱環境です。仮にオープンな間取り、さらに吹抜、勾配天井などにするのであれば熱のコントロールを上手に設計しておくことが重要です。
心地良い間取りをつくる言葉を探す
間取りを考える際、つい欲しい部屋数や広さを求めたくなるものです。しかし、その前にぼんやりでもいいので、自分なりに住まいに対しての言葉を箇条書きで書いてみると良いのかもしれません。その言葉から間取りを考えるヒントが生まれることもあります。
ヒントとなるキーワードを参考に20項目ほどあげてみました。もちろん、これ以外にもたくさんありますので、自分でも探してみて下さい。
□アプローチで高めるワクワク感
□カーポートを隠す壁をつくる
□敷地の中の良い景色を捕まえる
□塀と建物は同時につくる
□囲むコモンスペースと囲わないコモンスペース
□道からの視線と住まいの中の視線をチェックしてみる
□屋根を大きくかけて心地良い場所をつくる
□ウッドデッキを活かす(屋内と屋外がつながったリビングをつくる)
□外観はシンプルであっても表情はつくる
□佇みたい場所をつくる
□自分だけの居場所はあるか
□回遊したくなる中庭
□階段は間取りのヘソ
□階段の途中に居場所をつくる
□リビングはギャラリーのように
□吹抜けを挟んで空間をつなぐ
□吹抜けは二階から見下ろした時も美しく
□壁ではなく空間で間仕切る
□素足で過ごせる土間暖房をつくる
□ロフトは隠れ家のように
美しく仕上げるコツ
間取りが決まっても室内の空間は様々な部材の組み合わせでつくられています。したがって、美しく仕上げるコツとして10項目をとりあげてみました。
□窓の高さなど室内の水平ラインを揃える
□たくさんの素材は使わない
□素材の使い分けは壁一面とし継ぎ接ぎはできるだけしない
□窓枠はつけないでスッキリ
□目地の処理は目立たせない
□収納扉は金物選びが大切(把手をなくしてワンプッシュ等)
□梁などの構造材をみせてアクセントに
□巾木の高さはできる限り小さくし、壁と同系色を選ぶ
□階段手摺りの笠木は目立たせない
□室内ドアはできる限り引戸とし、壁と同じに仕上げる
アドバイス
近年の住まいづくりはユニット化され、加工場でつくられたものを現場で組み立てるといった作業が多く見受けられます。室内空間として何ら問題はないのですが、やはり美しく仕上げるコツは工場ではなく現場にあります。現場監督、建築家、施主の三者がつくりながら逐一確認し、難しいところは専門家に任せるといった流れで家をつくっていくといいでしょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。