

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
外装材は何を選ぶ?
「長寿命」の観点から考える
建物を新築する際に、屋根や外壁といった外装材で何を選ぶかは、外観の美しさだけでなく、耐久性や断熱性なども求められます。外装材は自然環境にさらされることで、機能や美観が損なわれやすく、住宅寿命にも影響を及ぼします。
どのような外装材を選んでも劣化するのは仕方がありませんが、どのような外装材が物理的に長寿命なのでしょうか。
劣化の主な原因は「湿度」と「水」
日本の気候は、四季のどの季節においても適度に「湿度」が保たれている状態であるため、全ての建築材料が劣化しやすい状況にあります。そして、汚れは「水」が最も影響を及ぼします。
新築時の計画段階では、この「湿度」と「水」に対してどのように考えておけばよいのかを考えていきましょう。
・外壁材-窯業系サイディングで気をつけること
外壁は、屋根と違って汚れが目立ちやすいです。さらに風雨などの厳しい自然環境にも耐える材料でなければなりません。かつては、「モルタル吹付塗装」などの仕上げが多かったのですが、現在の木造住宅の外壁材としては、「窯業系サイディング」のシェアが7割を占めています。バリエーションが豊富で耐久性もあり、多くの人に支持されています。
ただ、窯業系サイディングの原材料はセメントなので、塗膜が剥がれると防水はできなくなり劣化します。仮に塗膜が剥がれれば再塗装もできます。
その際、注意しておきたいことは、外壁に胴縁を設けて「通気層」を設けることです。通気層を設けずサイディングを直貼りすると、壁内に溜まった湿気が通気されず、蒸発する際に塗膜を押し上げることもあるのです。
近年は夏の日差しが強いので、これまで以上に紫外線による影響を受けやすいです。サイディングの一番の弱点はボードとボードの継ぎ目(目地)です。一般の施主にとってはあまり関心がないかも知れませんが、この継ぎ目はシーリング材やコーキング材といったもので充填されます。防水性や気密性を保持するためです。この継ぎ目部分が風雨や直射日光等でダメージを受けやすいので、切れ目から水が浸入しないように、新築後7~10年前後で弾力性や白い粉がふいていないかをチェックする必要があります。外壁の汚れよりもこういった目地などの方が汚れや劣化を感じさせられるものです。
・外壁材-塗装で気をつけること
外壁の仕上げで塗装材を選択する場合、塗装の種類は主に次の4種類で、特徴は以下のとおりです。
アクリル塗装 | ウレタン塗装 | シリコン塗装 | フッ素塗装 | |
耐用年数 | 5~7年前後 | 7~10年前後 | 10~15年前後 | 15年以上 |
価格 | 比較的安価 | 手頃な価格 | 若干高価 | 高価 |
耐水性・耐汚性 | 標準(普通) | 優れている | 優れている | 非常に優れている |
備考 | 一般的によく 使われる | 標準としてこのラ ンクを選ぶとよい | ウレタン塗装より 持続性が高い | 選ぶ人が少ない |
外壁の塗装は、周囲の環境によっても劣化の進み具合が大きく異なります。例えば夏の西日を受ける日照時間がとても長い、北側が崖で風を受けやすい、あるいは隣地が竹林で湿気が多い、といったように塗装に影響を与える要因は様々です。
塗装のコストも重要ですが、周辺環境を汲み取って選択することも重要です。
なかには周辺環境を考慮して、光触媒の塗装を吹付ける施主もいます。光触媒は高い耐久性と、汚れにくくするセルフクリーニング機能を持った塗料です。
また、「高日射反射率塗料」を選択することで自治体によっては補助金を受けられることがあります。塗料の種類や助成できる条件は、自治体ごとに異なるので、調べてみてください。
・屋根材で気をつけること
汚れの原因となる水をコントロールするには、やはり屋根材の選択と屋根勾配が重要なポイントになります。一般に屋根勾配はその地域の平均的な気象条件(風速、降雨量、積雪量等)を考えて決めます。屋根材は材料ごとに最低勾配が決まっているので、雨漏りのリスクを回避するためにも厳守する必要があります。屋根材ごとの勾配目安は以下のとおりです。
○金属屋根
・縦葺き(雨水が流れるのと同じ方向で貼られます)
→勾配は1/10以上
・横葺き(横に凸凹ができる葺き方で、縦葺きと比べて屋根材同士の境目も多くなります)
→勾配は3/10以上
○スレート屋根
スレートの主成分はセメントなので、塗膜で防水性を高める必要があります。滞りなくスムーズに雨水を流す必要があります。
→勾配は3/10以上
○アスファルトシングル屋根
ガラス繊維にアスファルトを浸透させ、シート状にしたものです。表面に自然石が吹付けられており、表面がザラザラしているので雨水の流れが滞りやすいです。
→勾配は3.5以上
○陶器瓦
粘土をもとに高い温度で焼き上げるので耐久性が高いです。メンテナンスも、割れても1枚毎に容易に交換ができます。ただし、屋根の重量が重くなるため、耐震性を高める必要があります。→勾配は4/10以上
屋根勾配は急勾配(6/10以上)が早く雨水が流れるため、屋根の劣化はしづらいかもしれません。しかし勾配を上げる分、屋根の高さも上がるため、風を受ける面積が広くなります。
一方、緩勾配(3/10以下)は風の影響が少なく、屋根の面積も少なくなるのでコストは下げられます。しかし、勾配が緩いと屋根の水はけが悪くなるため、雨漏りのリスクが高まります。
屋根の形は外観の形を決める上でとても重要ですが、風や雨の影響を考慮してバランスを考えながら検討することです。
佐川からのアドバイス
「サステナビリティ」という観点で考えた時、住宅は短命で終わらせていいものではありません。一般的には一生に一回の大きな買い物なのです。
高温多湿で雨の多い日本では、水や湿度をどうコントロールさせるのかを知ることが重要なのです。社寺仏閣は古くて汚れているかも知れませんが、それが汚れと感じさせません。やはり、水や湿度を上手くコントロールされているからこその、美しい汚れとなっているのだと思います。
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佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。