

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
家づくり気になる14の心得(前編)
満足度の高い家づくりを目指す14のヒント
住宅の設計を始めて40年が過ぎ、住まいにはそれぞれ家族の物語があり、計り知れない奥深さを持っていることを知ることができました。それは、家づくりには世の中のあらゆる事象が含まれているからです。例えば人間の活動、心理学、自然科学、地理学、保健衛生、そして造形論と、実に幅広くそれらの問題に対して答えを出していかなければならないからです。
また近年は持続可能な社会を目指して、自然エネルギーの活用や省エネ、そして将来的には廃材の活用を考えた材料の選択を求められる社会になってきました。
そういった様々な問題に対応して、一生に一回の大きな買い物をするわけです。これほど大変な選択がありながらも、一方ではこれほど楽しい買い物はないかもしれません。
家づくりに対してたくさんの心得があるのですが、今日は14項目をピックアップして解説します。14のヒント、14のキッカケを考え、納得できる家づくりに役立ててください。
14の心得
家をつくるにはたくさんの課題やテーマがあります。そうした課題に対してこれまでの経験値をもとに、とくに関心が高いと思われる項目を14項目選び、解説していきます。
① 誰に家づくりを頼む
② 間取りとは何か
③ 長寿命な家づくり
④ 竣工時からメンテナンス性を考慮
⑤ 光・風・熱・音・臭は見えない、見えないからトラブルになる
⑥ 省エネで暮らす
⑦ 地震に強い家づくり
⑧ 内外の一体的な空間づくり
⑨ 防犯の心得
⑩ 収納の心得
⑪ やっぱり自然素材が良い
⑫ 素材は3つ以上使わない
⑬ 気持ちの良い吹抜、気持ちの良くない吹抜
⑭ 重い壁と軽い壁
14項目と項目が多いので、今回は前編として①~⑦項目を解説していきます。
① 家づくりは誰に頼む
家をつくるには様々な方法があります。一般的には次のとおりです。
・地域の工務店に設計・施工で依頼する
・住宅メーカーの設計・施工で依頼する
・建築家に依頼して、設計と施工を分離して依頼する
・建売住宅を購入する
それぞれの長所と短所がありますが、もっとも大切なことは「自分たちの暮らし」という、夢と現実をしっかり描くことです。その上で、設計図面にそれらの希望を採り入れてまとめていくことです。設計図面がないと工事見積もりも出してもらえません。このプロセスを踏むことで、トラブルを防ぐことができるのです。
② 間取りとは何か
「壁で仕切ること」を間取りと考えていますが、これは大きな間違いです。
間取りとは「生活を描くこと」から始めます。例えば台所で調理をして、ダイニングで食事、そしてリビングで団らんをする。これらの行為一つ一つに空間があるのではなく、一連の生活の場として空間があり、そこにその家族なりの暮らしの形を発見することができます。これが間取りなのです。
③ 長寿命な家づくり
かつて日本の家は30年以内に取り壊されていました。長寿命な家づくりをするために、建物本体の耐震性はもちろん、使い勝手からの寿命も大切な視点です。
例えば将来的な間取りの可変性や、設備機器及び配管の更新といった容易な維持管理の実現です。長寿命な家づくりは、これらの側面から考えていくことが重要です。
そして愛着の持てるデザインや空間であれば、建物は長く使うことができるのです。
④ 竣工時からメンテナンス性を考慮
住宅は、まだまだ人の手によってつくられていきます。したがって不具合が出る箇所があるかもしれません。それらを事前に防ぐために、着工時や引き渡しの際などに十分チェックする必要があります。
また、選択した材料や設備機器をどのようにメンテナンスしていけばいいのかを確認することも重要です。そして、それぞれの材料や設備機器には「寿命」がありますから、更新するための積立金も準備しておかなくてはなりません。
建物はしっかりメンテナンスをすれば、仮に木造であっても長持ちします。いくら鉄筋コンクリートでつくったとしても、環境条件が厳しければ20年足らずで劣化が始まってしまいます。すべてはメンテナンスの扱い方によって決まるのです。
⑤ 光・風・熱・音・臭は見えない、見えないからトラブルになる
これらに共通しているのは「目では確認できないこと」です。そのため、個人的な感覚の違いによって意外なトラブルにもなるのです。例えば、
「もっと光が入って明るくなると思った」
「いざ住んでみると寒く、床暖房を採用すればよかった」
「2階からの足音や階段から降りる音が気になる」
「オープンキッチンにしたのはいいが、部屋に調理の臭いが広がってしまう」
といったものです。
これらは間取り図面では気付けません。とにかく設計士と十分対策について検討することです。
⑥ 省エネで暮らす
はじめに考えることは断熱材の選び方です。断熱材にも様々な種類があります。一般の人の判断では難しいため、設計士とよく相談をして、その地域や予算にあった断熱方法を選択してください。共通して言えることは、「外壁を密閉してはいけない」ということです。壁体内に生じた水蒸気の逃げ道を確保しておくことが大切ですので、必ず通気層を設けてください。
断熱材の次は、窓や玄関扉といった開口部です。複層ガラス、トリプルガラス、樹脂サッシなど窓まわりの省エネを考えます。
その他にも、太陽熱の利用や蓄熱など「自然力」を活かした省エネの取り組みです。国や各自治体、公共団体等で様々な補助金を受けられる事業がありますので、興味がある方は自治体のHPやSNS等で調べてみてください。
⑦ 地震に強い家づくり
木造住宅が地震や台風などの横方向の力に耐えるうえで、柱や梁などで構成される軸組(骨組み)だけでは不十分で、変形してしまいます。「強い壁」をつくることで変形を抑えられます。この壁を「耐力壁」あるいは「耐震壁」と呼びます。耐力壁の強さや量が不足、配置のバランスが偏ると倒壊の原因となってしまいます。耐力壁が適切に配置されているかで、木造住宅の耐震性の良し悪しを確認する一番の方法なのです。
次回は残りの⑧~⑭項目を解説していきます。
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佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。