家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
施主の満足度は設計力、そして施工能力の高さ
設計力と施工能力の高さが重要
住宅業界は昨年の消費増税以降、住宅会社としての強みを強化し、次の2020年以降の準備をしていました。そこに予想外の新型コロナウイルス感染拡大によって、さらに次の一手を考えなければならない状況にあります。
住宅需要の減少と質の変化、これらは避けては通れないことであり、会社の強みは何かを更に見極め、取り組んでいくことが求められているのです。
その中で各社とも力を入れているのが、設計力と施工能力の強化です。
建主にとって世界でたった一つの家をつくることになるわけで、設計力と施工能力の高さを一番に考える必要があります。それを大量の宣伝やテレビCMなどの情報に振り回されることのない、自分の確たる眼をもって選んでいく必要があります。それでは設計力と施工能力が高い建設会社を、どのような視点で選べば良いのかを考えていきましょう。
設計力と施工能力の高さはどこを見る?
・設計力を見極める
設計は感性、知識、知恵、技術、そして経験値が求められます。個人の力量に負うところが多分にあり、施主との相性が合わないと折角の提案も上手く伝わらず、理解されない場合も時々あります。
そこで、施主側は主に次の10項目の視点から住まいを考えてみてはどうでしょうか?
□ ①間取りはどうか(動線計画と併せてワクワク感が感じられるか)
□ ②外観のデザインは気に入ったか
□ ③内観の色使いや素材の選択はどうか
□ ④耐震性、耐力壁のバランス、構造的に無理のないデザインか
□ ⑤風の通り道はあるか(通風計画)
□ ⑥光の採り入れ方はどうか(採光計画)
□ ⑦熱環境はどうか(省エネルギー計画)
□ ⑧設備機器・照明の選択と提案はどうか
□ ⑨外まわりと室内との関係性はどうか
□ ⑩素材の経年劣化と経年美をどのように考えられているか
主にこの10項目の中で、特に自分(施主)が重要と考えている項目をピックアップして、その満足度が高ければ納得して計画が進められるでしょう。殆どの施主は初めての家づくりなので、重要と考えている項目を出せない施主もいます。相手に何を求めるかは、まず自分が家づくりに対して何を最も重要としているのかを明確に持っていることが大切です。それがないと打ち合わせを重ねても、プランがコロコロと変わり、計画が進まないこともあるのです。
住宅は他の建築物と違って生活をデザインしていきますので、経験値の高さが求められます。仮にデザインが素敵でも、かなり高いコストになったり、実際に住んでみると住心地は良くなかったという実例は沢山あります。そのあたりも考慮しながら、設計者の力量を見極めていくことです。
・施工力を見極める
新築するというのは、施主にとってもワクワク感があります。しかし、施工会社によってはそのワクワク感を裏切られることもあります。いくつか例をあげると、
・工事期間中に現場の周辺道路がいつも汚かった
・工事中の音や埃で近所に迷惑をかけた
・駐車違反の車がいつもあった
等々です。
家を建てるということは、こうした苦情も舞い込み、工事期間中はずっと肩身が狭い思いをしながら過ごすということもあります。新築をしてご近所関係が悪くなったという現場は意外とあります。まずは、気遣いの出来る施工会社を選ぶことが原則です。
かつて建設会社には協力会という組織があり、ひとつのものを皆で協力してつくっていこうという会がありました。勿論今でもありますが、組織そのものが、職人の高齢化に伴い弱体化しています。最近は人手不足を補う為、職人をネットで募集して派遣するといったサービス会社もあるほどです。
職人一人ひとりの技術力は、実際に工事に入ってもらわないとわかりません。しかし、心の中に物をつくる楽しさや喜びがある職人は、作業する場はとても綺麗です。反対に作業レベルの意識で「一日いくら分こなせばいい」「適当にやって早く工事を済ませよう」と思っている職人は、魂が入らず、掃除まで気が回らないものです。
また、現場には必ず現場監督がいます。その現場監督も一人で5つや6つの現場を抱えていて、細かい所まで気が回らないことがあるのです。住宅メーカーなどは、一人で20件くらいの現場監督をするところもあります。
現場の社長は現場監督です。力のある現場監督を選ぶことが、良い住まいづくりにもつながっていきます。施工会社を見極めるには現場監督に直接会わせてもらうと良いでしょう。
さらに現場では次のようなところを確認してみて下さい。
□ ①土砂や土埃で道路を汚していないか、また、道路掃除もされているか
□ ②車の出入りで周辺に迷惑をかけていないか
□ ③現場内で決められた喫煙所を設けているか
□ ④資材などが整理整頓されているか
□ ⑤現場に入ってスッキリとした気分になるか
□ ⑥分別のゴミ箱はつくっているか
□ ⑦柱や壁、床などが汚れていないか、養生シートは敷かれているか
□ ⑧職人は図面の内容をよく把握して、作業しているか
□ ⑨質問に対して、わかりやすく答えてくれるか
□ ⑩現場は安全対策の措置が徹底されているか(足場、ヘルメット、熱中症対策など)
以上、10項目をあげました。気になった箇所があれば直接職人ではなく、現場監督に相談し、お互いに信頼性を高め、対話を重ねることが大切です。その経験は現場監督にとっても心に残る現場となり、万が一入居して1年後に何か不具合が出てきても、いち早く駆けつけてくれるでしょう。
佐川旭からのメッセージ
建築はひとつの作業が終われば次の職人に渡され、まさに手から手への連続で完成していきます。その手から手をつないでいくのが、現場監督の役割です。(まるで団子を並べて串で刺していくような役割ですね。)設計は施主の希望や要望を踏まえて、図面に纏めることができます。しかし、実際現場でつくるものは、長年の風雨雪に耐えていかなければなりません。したがって、しっかりした家をつくってもらわないと、施主は住宅ローンだけでなく、「重い精神的なローン」も背負うことになってしまいます。
見積もりにおいて、コストの比較も大事ですが、実は施工会社の現場監督の力量も建物の質に大きく影響を与えることも考慮しておくことが大切です。施工会社を決める前に、出来れば現場監督の工事実績表などを出してもらい、経験値を確認しておくアイデアもあります。
―現場監督に関する資格―
施工管理技士・・・施工過程における施工計画、工程管理、品質管理、安全管理に重点をおく、まさに施工管理のスペシャリストとしての資格。(一級、二級がある。)
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。