家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
すまいの相談から(前編)
建築の相談はさまざま
建築の仕事をしていて面白いことは、同じものを2回つくることが無いことです。ほとんどの人が人生に1度の家づくりであり、当然、場所も敷地の形状も異なります。したがって受ける相談もバラバラですが、共通する問題もあります。
今回は、これまで受けた相談の中から参考になるものをピックアップして、今月分を「前編」、来月分を「後編」の2回で紹介したいと思います。
誰もがトラブルを避けたいと思いますが、建築は何もない所からつくっていくので、トラブルが起こりやすい業種というのも事実なのです。
主な相談内容から
①隣地との境界石がない
②建て替えで私道所有者の承認が必要に
③建て替えでセットバックが必要に
④前面道路の関係で容積率の制限が厳しく
⑤契約直前のキャンセルで設計費用を請求された
⑥「任せてくれ」の言葉を信用したばかりに
⑦現場監督が現場を見に来ない
以上、7つの相談に対して、回答及びアドバイスをします。
① 隣地との境界石がない
隣地との境界石は、分譲地ではしっかりと境界石や境界杭が入っています。しかし、長く住み続けていて、いざ「建て替え」となって確認すると「境界石が入っていない!」ということが多々あります。
【回答】
境界を確認するためには、公図を取り寄せて現地を見るにしろ、測量士に依頼するにしろ、隣地所有者の「立ち会い」と「同意」が欠かせません。
もし塀などが境界になっている場合は境界線が塀の「芯(中心)」なのか、「外面(隣地側)」、あるいは「内面(自分の敷地側)」なのかをハッキリさせなければなりません。
また、ブロック塀の高さが1.2mを超えている場合、3.4m以内ごとに「控え壁」が必要となります。その控え壁を設置する際は自分の敷地側に立てることがほとんどです。
② 建て替えで私道所有者の承認が必要に
私道を巡ってのトラブルはよくある話です。
【回答】
私道というのは公道に対して「個人が所有する土地を道路や通路として利用しているもの」をいいます。
自宅を建てる際、建築基準法上の接道義務(幅4m以上の道路に2m以上接していること)を満たすため、敷地の一部について、自治体による道路の指定(位置指定)を受ける場合があります。他人所有の私道についてのトラブルは、その私道を利用する権利が自分にあるかどうかがポイントになります。まずはその点をハッキリさせる必要があります。
自分にその私道を利用する権利があれば、それに基づいて主張すればよいでしょう。場合によっては一定の費用負担もあるかも知れません。いずれにしても、所有者とよく話し合って解決することです。合意した事項については、必ず文書に残しておくことです。
③ 建て替えでセットバックが必要に
セットバックが必要にというのは、古くなった自宅を建て替えようとしたら前面道路が狭いため、セットバックをしなければならない場合です。
【回答】
建築基準法で「道路」と呼ばれるものは、原則として「4m以上」のものです。前面道路が「4m未満」であれば、道路の中心から両側に2mの位置を敷地と道路の境界線とみなし、敷地を後退(セットバックという)させなければなりません。
この後退部分の土地は、所有権があっても使用できず、塀を設置したり木を植えることも出来ません。さらに注意が必要なのは、建ぺい率、容積率の計算にも算入することができないということです。
④ 前面道路の関係で容積率の制限が厳しく
③同様、前面道路と敷地の関係の相談です。
宅地を購入して家を建てようと思ったら、前面道路の関係で容積率上限に建てることが出来ないと、購入後に言われたということでした。
【回答】
このケースは前面道路が狭いため、日照や通風を確保できるように、高い建物が制限される「斜線制限」のことです。
自分の敷地に対して、前面にある道路を挟んだ反対側の敷地境界線から、勾配のついた斜線を自分の敷地側に想定し、その斜線よりも内側に建てなくてはいけない決まりです。
斜線制限は「用途地域」ごとに制限が異なります。住居地域ほど厳しく、商業地域ほど制限が緩和されます。
土地を購入する前に、まずはその土地の用途地域と、どのような建築制限があるのかを確認することです。
⑤ 契約直前のキャンセルで設計費用を請求された
設計契約のキャンセルについてですが、「契約前なら全て無料」と思い込まないことです。
【回答】
契約直前のキャンセルですから、「そこまでの業務」は当然行っていますので、費用を支払わざるを得ないことも十分考えられます。
これらは依頼先よっても多少異なりますので、「どの段階で請求が発生するのか」を事前に確認しておくことです。
依頼先というのはハウスメーカー、工務店、設計事務所などです。会社によっては「サービス」として工事費に含まれる場合や、「平面図までは無料」といったケースもあります。
しかし設計事務所の場合は、「設計」で生業(なりわい)をたてていますので、「設計費」の請求が発生します。このあたりも設計事務所によって請求時期や金額も異なりますので、依頼時に確認しておきましょう。
⑥ 「任せてくれ」の言葉を信用したばかりに
これはビジネスの枕詞(まくらことば)ですね。何となく契約して、あっという間に着工。そしてトラブルとなったケースは多々あります。
契約というものの「怖さ」を、十分理解できていない人がまだまだいるのです。
【回答】
お互いの信頼と協調で物事が進めば、それに越したことはありません。しかし契約が成立すると法的な効力が生じ、様々な責任と制約が伴ってきます。
相手がいくら熱心で信用できそうに見えても、契約する時にはそれなりのステップを踏む必要があるのです。
⑦ 現場監督が現場を見に来ない
現場監督が「週1で現場に来る」と言いながら、現場によっては大工さんや他の職人に任せきりのところもあります。
【回答】
現場監督は「工事管理者」として工事のミスや手抜き工事を防ぐだけでなく、設計図だけではわかりにくいことを指示したり、現場周囲の居住者とのトラブル防止や調整なども託される存在です。
ハウスメーカーの現場監督は、一人あたり10件以上の現場を掛け持ちしている場合もあります。そうなると、つい手の掛かる現場に行きがちになるのです。
あまり現場に来ないようであれば、施工会社に連絡しすぐに対処してもらうか、更にいい加減な対応であるように感じるのであれば、現場監督を代えてもらってもいいと思います。
次回について
今回は建築工事や建築基準法の基本的な事柄を取り上げました。次回は「追加工事」など、お金に絡んだ内容を取り上げます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。