家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
デザイン優先がトラブルを招く?
基本的なことへの理解不足
建築物は様々な材料を継ぎ合わせたり、組み合わせたりして一つの空間をつくっていきます。アナログ時代は一つ一つの材料を検討し、その材料と違う素材をどう納めるのか、あるいはどう取り付ければ安全で長持ちするのかを検討しながら施工していました。
近年はITの進化によってたくさんのビジュアルに接することができるのですが、その弊害としてデザインが先行されるあまり、検討もされないまま工事が進んでしまい、完成後に問題が起きてしまうケースが少なくありません。
本来、設計者または現場監督が事前に検討するべきなのですが、経験不足や扱ったことのない材料では、やはり施工する職人も不安になります。納まりがきちんとしていないと必ずそこは何年か後に不具合が起きてしまいます。そうならないためにも責任を明確にし、施主としての心構えもつくっておくことが大切です。4つの事例から心構えを考えていきましょう。
4つのトラブルから学ぶ
4つのトラブルのうち2つは自然素材への理解不足。もう2つはデザイン優先で施工した結果のトラブル事例です。
<自然素材への理解不足>
トラブル①・・・床暖房によるフローリングの反り
・トラブル内容
フローリングの突き合わせ部分が反ってしまって、ひどい箇所は歩けないほどの状態になってしまった。
・原因
始めは床暖房対応のフローリングを選んでいました。工事途中で施主が無垢のフローリングを希望され、万一の場合、反ることもありますよと伝えたのですが、どうしても使いたいということで進めてしまった。
・対処
床暖房対応のフローリングに貼替えをした。
アドバイス
無垢のフローリングで、床暖房対応していなくても大丈夫なケースはあります。しかし、それは施主の理解のもとに進めないと仮に全面貼替えになった場合、費用をどちらで負担するのかという問題も発生します。基本的には床暖房対応のフローリングを選択することです。
トラブル②・・・玄関扉に無垢板を使い塗膜のハガレが起きた
・トラブル内容
玄関扉に無垢板を使って1年後に塗膜のハガレが起きてしまった。
・原因
玄関扉はちょうど西側の位置にあり、強い日差しを受けやすく、1年を通して寒暖差の影響を受け塗膜のハガレと扉の日焼けも著しかった。
・対処
木材の膨張収縮に追従できる含浸系の塗装にして修復した。(始めの塗装はウレタン系の塗装を使っていた)
アドバイス
玄関扉の位置が西側ということで意外な落とし穴でした。塗装は材料を保護するために塗るのですが専門的なことなので中々わかりづらいところがあります。
一般に外部木部の塗装は3~5年くらいを目安にメンテナンスが必要です。また、コルクなども日差しの強いところにフローリングとして使うと変色しますので注意してください。
<デザインによる検討不足>
トラブル①・・・引込み戸の上下すき間から風が入り寒い
・トラブル内容
リビングから庭をダイナミックに見たいということで開口部の高さを2.5mにした。
木製の大型引込戸にして開閉を楽にしたいということで吊り引込戸を採用した。その結果、木製建具の上部と下部の隙間から風が入りリビングがなかなか暖まらない。
・原因
木製建具はアルミサッシと違って気密性に劣ります。開閉方式を「吊り方式」にしたことで上下に隙間ができ、そこから風が侵入しやすい原因をつくったのです。
・対処
木製建具を撤去してアルミサッシに交換しました。
アドバイス
住み心地にもっとも影響を与える要因のひとつに温熱環境があります。温熱環境は体感的な要素もあり個人差が出るので、十分打ち合わせをして理解しておかないとトラブルの源になります。
トラブル②・・・ガラスの切り欠け部のひび割れ
・トラブル内容
浴室から庭が見えるようにとフロートガラスを使いました。ガラスの一部を切り欠きしたのですが、その切り欠きした箇所が自重でひび割れを起こしてしまった。
・原因
ガラスの自重が不均等にかかりひび割れが起きてしまった。
・対処
すっきりと見せるため一枚ガラスにしたが、浴槽の角のところに縦枠を入れガラスを2分割にしてやり直した。
アドバイス
どうしてもというのであれば強化ガラスの検討もしてみることです。近年は住まいの中にゆるやかな距離感をつくる材料として様々なガラスが用いられています。地震時の割れなど安全にも十分配慮しながら採用することです。
佐川 旭からのメッセージ
4つの実例に共通していることは、材料への基本的な理解不足とデザイン優先で進めた結果、生じたトラブルということです。
最近は打合せをしながら施主は「こんな感じが好き」と言ってスマホなどで画像を取出し、イメージを伝えやすくなりました。打合せの風景もデジタルです。それはいいとして、そうであれば設計者は、綿密な納まりやコスト等も検討してアドバイスをしなければなりません。一方、施主側もそのデザインをすることでの不具合やメンテナンス等も質問しておくことをおすすめします。そこで設計者はどう答えるかで設計者の力量も確かめることができます。
4つの実例をあげましたが、費用負担については詳しく述べていません。しかし、理解を得られるには大変な労力と時間がかかったことは言うまでもないでしょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。