家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
今どきの間取り変化を知って活かす
人と住まいは共に変化
コロナ禍による日常生活への影響が続く昨今、住まいはどのように変化したのでしょうか。テレワークといった新たな日常が定着しつつあり、住まいに対する関心が高まっているということも確かなことです。そういった中で、慎重に検討しながらも理想的な住まいに暮らしたいと思うのは当然です。
ただ「理想的な住まいとは何だろう?」と考えた場合、そう簡単に答えることは難しいでしょう。なぜなら人の数だけ「答え」があり、さらに理想というのは人生と共に変化するものだからです。年齢や家族構成が変われば、求める理想も異なってきます。そういった意味では、住まいはやや厄介な買い物(?)と言えるかもしれません。
そして、住まいは建ててしまえば終わりではなく、育てていく必要があるのです。そんな住まい観を持ちながら、近年の間取りはどんなところが変化したかをとりあげてみました。
間取りはどんなところが変化した?
建築雑誌や不動産広告などを見続けると、次のようなところが変化したと考えます。
・シューズクロークの充実
ライフスタイルの多様化やコロナ禍によって、アウトドアやスポーツが盛んになったことが要因だと捉えています。子どもの遊び道具、テント用具、バーベキューセットなどを買い揃える家族が増えてきたかと思います。かつての下駄箱は、玄関収納として大きなスペースを占めるまでになってきたのです。
左側が玄関、右側が収納スペースとして利用
設計:佐川旭建築研究所
・洗面室の充実
特に近年は共働き世帯が増加していることと関係があります。家事ラクという言葉で表現されるように、家事効率化への関心が高まっています。
一般的に洗面室は2畳前後(1.8m×1.8m)のスペースが多いのですが、近年は3畳位の広さを確保する傾向があります。洗濯から乾燥まで完結させることや、収納スペースを充実させることで効率的に家事ができるという考え方です。洗面室はコスメ用品や衣類など、収納物が多いので、スペースを充実させることで空間もスッキリとします。
たった10センチの巾であっても化粧瓶やシャンプーなどの収納は十分。こういうアイデアがあってこそ広いスペースも活きてくる。
・バルコニーは外、それとも内に設ける?
バルコニーのない家がよく見受けられるようになりました。洗濯物をどこに干すのだろうと不思議に思うかもしれませんが、室内に干すスペースを設けているのです。室内に干す主な理由は以下のとおりです。
①花粉やPM2.5等、季節性の影響を受けたくない
②朝、昼、夜と時間の制約を受けたくない
③洗濯工程を効率化したい
周辺環境にもよりますが、今後はさらに室内干しスペースの設置は増えていく傾向にあると考えられます。
また「洗濯物を干すだけ」としてつくられたバルコニースペースは、もう少し幅や奥行にゆとりを設けると、2人がけのテーブルセットを置いて、ちょっとした休憩ができるスペースとして利用できます。
・畳コーナーの広さと使われ方は?
畳の使われ方は地域によって大きく変わるでしょう。地方は客間や寝室としての和室、都市部は多目的スペースとしての畳コーナーです。特に都市部においては敷地面積が大きく確保できないことから、毎日の暮らしで活用する空間としての畳コーナーです。例えば子どもを寝かせり、洗濯物をたたむ、あるいは書斎コーナーなど、多用途な使い方です。10年前は6畳くらいの広さがありましたが、近年は4.5畳くらいの広さで畳コーナーを設ける傾向にあります。
リビングは少しでも広く
住まいをつくるにあたって、もっとも重要視されるのがリビングです。一番の見せ所でもあるため、できる限り広いスペースを確保したいところですが、全体の延床面積の割合や、予算などを考えると難しいところもあります。そこで工夫としては、延床面積に算入されない吹抜けやリビングイン階段などで開放感を演出するプランを採用することです。
これらの工夫は断熱や気密、さらに省エネなどに配慮しながら今後も支持されていく手法でしょう。
佐川からのアドバイス
形というものは、形を求めて「美しい形」が出来るものではなく「何か」があって、初めてそこに「美しい形」を見つけることが出来るのだと思います。
住まいでいえば、「家」という漠然とした抽象的な形があって、その中で間取りをつくるのではなく、そこに暮らす人々の生活が前提にあるのです。そして、その生活のために間取りがあり、はじめて「美しい形」がつくられていくのです。
様々な条件を整理して、ぜひ美しい形(家)をつくって下さい。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。