家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
注文住宅をつくりたい、その前に
注文住宅といっても
住まいづくりで始めに考えなければならないことのひとつに、注文住宅にするかそれとも規格型住宅にするかの選択があります。規格型住宅であれば一般的にはハウスメーカーやビルダーに依頼することになります。注文住宅はハウスメーカーやビルダーも行いますが、建築家に設計を依頼する方もいます。
一口に注文住宅といっても依頼先によって多少違いがあります。ハウスメーカーであればある一定の条件や制限のなかで設計をし、建築家であれば可能な限り自由にデザインをします。住まいの広告などに「注文住宅」と書かれているチラシを目にしますが、このあたりはよく確認をして進めることが大切です。
注文住宅は減少傾向に
2022年の住宅市場をみると新築住宅着工数(1月~10月)のうち、注文住宅は前年比に対して10.7%の約21万2000戸と大幅に落ち込みました。主な要因としては、注文住宅よりも買いやすい分譲戸建てと中古戸建に顧客が流れたからです。おそらく2023年も大幅な着工数の増加にはならないと予測されます。そう考えると、注文住宅を考えている人は施工側からみればとても貴重な施主になるわけです。だからこそ、住まいに対してしっかりとした心構えをもって臨んで欲しいのです。
どんな家に住みたいのかをイメージする
住まいの雑誌などを読むと必ずと言っていいほど書かれているのが「家をつくる時は、どんな家に住みたいかイメージしてみよう」というフレーズです。家づくりは初めての人が殆どなので、日当たりや家事ラク、寝室が8畳は欲しい、インテリアは自然素材でといった要望が並ぶことがあります。もちろんそれで問題はないのですが、その前に注文住宅は「注文」ですから、自分たちの「住まい観」を持つことも大切です。
住まい観とは?
注文住宅をつくるにあたり、具体的なノウハウは現代であれば容易に手に入れることが出来ます。しかしそれだけで良いのでしょうか?住まいをつくるという事は、ある意味、人生を決めていくことでもあり、貴重な経験が出来るという事でもあります。
2つの住まい観をとり上げてみます。
① かたとかたち
建築はかたちをつくることです。かたという言葉は「かた」と「ち」が結びついて出来ています。「ち」とは眼に見えぬ生命力の働きを意味し、いのちの「ち」、ちからの「ち」であり、血(ち)や命(いのち)、土(つち)、東風(こち)などの言葉にも使われています。「かた」という均一で安定しがちなものに「ち」の働きが加わることで動きやリズム、そして何かが渦巻くものを感じることができます。住まいづくりにおいて自分、あるいは家族の背後にある人生の歩みを紐解いてみます。それをかたちに変える作業が自分達の想いとなり、それが住まいの中にデザインされることで、建物に愛着が生まれ、家を育てていく源になっていくのではないでしょうか。それは「経年劣化」ではなく、やがて「経年美」となってくれるはずです。
② 日本語の文体から
日本人の空間感覚は、当然日本における言語空間の中で育まれています。改めて日本語の成り立ちから建築空間を考えてみましょう。
英語は動詞が主語の次に出てきて、重要なことが早い段階で明らかになります。日本語は主語と述語の間にさまざまな情報を挟み、動詞は最後の最後に来て文体は完成します。
「どうする」にたどり着く前に「こんな風で」「あんな様に」といった具合に細かいところまで感じ取ります。日本人にとってそうした「ニュアンス」はとても大切で、ニュアンスのまわりに意味が余韻として漂い、あるいは膨らみを持たせるのです。この感覚の違いこそがモノの見方や表現に影響を与えてきたのです。どちらかというと、近年の建築は効率を求め均一な空間へと導いてきたので、主語の次に動詞がくる、英語の文体の様な関係とも言えるのではないでしょうか。はっきりとした空間が機能的に直接つながっていくのです。
一方で、主語と述語の間に様々な情報が挟まると、日本語の文体はバッファゾーン(緩衝帯)が入り込むような関係です。つまりはっきりとした空間の衝突は避け、やわらげてくれる効果が期待できるのです。さらにやわらかくなった空間には膨らみができ、想像力をも掻き立ててくれるのです。
まとめ
だんご3兄弟になるには、それぞれが持ち味をもって綺麗に並び、そこに串を刺さないといけません。建築もまた同じように、美しい素材や機能的な設備機器を空間に取り入れたとしても、全体的な調和が悪ければ心地よい空間にはなりません。つまり自分なりの注文住宅をつくるには串を刺すような人が必要なのです。
施主は具体的な要望よりも、自分の経験や素敵な言葉、あるいは旅先での思い出などを語ることが大切なのです。その中から建築家は言葉を形にしてくれます。
「自分たち家族にどんなかたち(住まい)を提案してくれるのだろうか」とてもワクワクしませんか?そこに注文住宅ならではの醍醐味があるのではないでしょうか。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。