家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
欠陥住宅はこうして防ぎなさい
すまいのトラブルは増えている
昨年まとめられた『住宅相談統計年報2016年( (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター)』をみると、2015年度における相談件数は28,638件で、前年度と比較すると9.6%の増でした。そのうち67.1%にあたる19,227件が住宅の不具合や契約に係る事項など「住宅のトラブルに関する相談」です。さらに、実際に住宅の不具合が生じていた相談は、10,413件で、築1年未満が35.4%と最も多くひび割れや雨漏りなどの性能不足です。
なかでもひび割れなど多くの不具合は、築3年未満までの早い時期に相談があり、雨漏りなどは築3年以降も比較的相談に至る割合が高い傾向にあります。
いずれにしても施主にとっては、どうすればよいのか不安になる問題の一つと言えます。
なぜ不具合が起きるのでしょうか?
依頼先によって、不具合の起きる問題は、多少なりとも違うのかも知れません。たとえばハウスメーカーの一部は、大量生産による効率化をはかり、家づくりをしているため、規格化させた製品を組み合わせていくので、多少なりとも難しい条件になると対応できないこともあります。
建築家に依頼した場合はどうでしょう。デザインを重視してしまうタイプの建築家は、軒や庇をなくし立方体のすっきりとして家をつくりたがります。
軒や庇がない場合、数年後に壁と屋根の接合部分が雨漏りの原因になっていくこともあります。
特に雨の多い日本では、雨仕舞いのディテールをしっかりと考えてデザインをしなければ、後に大きな問題を引き起こすことになります。
また、大きな吹抜けや大きな窓などもつくりたがります。開放的でとても良いのですが、十分な熱環境を考えなければ熱損失が大きいので、冬は寒い住宅になってしまうこともあります。
次に工務店に依頼した場合です。一番のメリットは設計・施工費が比較的割安な点です。
しかし、設計・施工を同一会社で行うため、工事監理がどのように行なわれるのか不明です。
工事体制の不備による不具合が起きないか、気になるところです。
さらには、情報量などもハウスメーカーと比較すると少ない感じがします。
欠陥住宅や不具合をなくすにはどうすればよいの?
大手の住宅メーカー、中小工務店を問わず建築工事は、一人一人の職人に負うところが大きいといえます。工業化やシステム化によって部材の精度は、かなり高くなっているものの、最終的には現場で職人がどう仕上げていくかがポイントなのです。
また、仕事全体の工程と内容をチェックするのが会社工事部の責任者です。そして、職人たちの力量を引き出し、現場を実際進めていくのが現場監督です。
しかし、近年はなかなか若い人が育ちにくい環境にあり、実際現場を進めているのは、職人の親方といったところもあります。
こういった社会的背景を考えると、第三者的な立場の監理者を立てて仕事をすることで、ミスや不具合をなくすことができます。
第三者による監理でミスや不具合をなくす
まずは、施工と設計を分け、設計者は施主側の立場に立って工事のチェックをしていける体制をつくることです。それは建築家を選び、数ある工務店から1社を選ぶ方法、つまり設計と施工を同じにしないということです。
あるいは、設計・施工をハウスメーカーや工務店に依頼したとしても、工事監理だけは、別にお願いする方法です。着工から順次節目ごとに工事監理をして報告してもらうのです。
工事監理で現場に行く回数は、おおよそ15回くらいでしょう。
工事監理の費用が別途かかりますが、このくらいの頻度で現場を見ていれば施工上の欠陥や不具合は防げます。
住宅を建築することは、人生最大の買い物とよくいわれています。監理だけを引き受ける建築事務所も近年は多くなってきました。
工事監理の費用を別途支払っても、長い目でみれば十分価値はあると思います。
第三者による監理が必要なわけ
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。