家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
理想の家づくりを叶える
3回家を建てる?いや、1回で十分!
家づくりにあたり、よく「家は3回建てなければ良い家はできない」、或いは「一生に一度の一番高い買物」などと言われます。なかには「家をつくって幸福になろう」と謳う会社もあります。家族の幸福は家にあるのではなく、それを家というものでまとめているにすぎません。
理想の家づくりは信頼できる専門家との出会いと、家づくりのプロセスから得た経験を日常生活に活かしてこそ叶えられるものなのです。今の時代に3回も家を建てる人は殆どいないでしょう。では、理想の家づくりをするためには、どのように考えていけばいいのかを考えていきましょう。
信頼できる建築家と出会う
家づくりのプロセスは選択と決定の連続です。おそらく計画段階から竣工まで約700の質問に対して決定していくことになると思います。それを短期間の間に全て自分で判断していくのは無理があります。単なる色だけの選択ならまだしも、専門的な知識も求められ、経験値が求められるアドバイスも必要になるでしょう。ほとんどの人は初めての体験ですから、知らないことだらけです。したがって自分で判断できないことは専門家に任せるしかありません。理想の家づくりをするには「家が出来上がるまでの道のり」を一緒に歩んでくれる専門家(建築家)と出会い、お互いに信頼関係が築けるかどうかがとても重要なのです。
なぜ「建築家」なのかというと、ハウスメーカーや工務店は一般的に設計と施工が同じ組織で運営されています。大切なポイントは「施主の代理」として第三者的にチェックする人を置くことです。注文住宅は分譲住宅と違って完成している家を見て購入するわけではありません。最初は「眼に見えないモノ」にお金を払っていくので、家に対しての考え方や心構えはもちろん、つくっていく中での出来具合が最も大切になります。
ハウスメーカーなどは一定の品質は担保されるかもしれません。しかし、1年に何千棟もつくるので、いかにクレームやトラブルを少なくするかが重要で、そのために工法や納まりをシステム化していきます。よって空間が画一的になる傾向にあります。
贈与の心を持った建築家を探す
自分と価値観を共有し、共に家づくりのプロセスを進めてくれる、信頼できる建築家はどのように探せばよいのでしょうか?
主には次の5通りが考えられます。
①友人・知人に紹介してもらう
②ネットや雑誌で気に入った建物を見て、コンタクトをとってみる
③家づくりの本などを読んで、共感した建築家に依頼する
④相談会やセミナーなどに参加する
⑤すでに素晴らしい家を建てている人に聞いて、紹介してもらう
近年はネットで探しやすくなったと言えるでしょう。
家づくりは想像力を働かせながら、とても手間暇がかかる仕事です。したがって住宅設計を得意とし、人がとても好きな建築家を選ぶことです。住宅は他の建築と違って人間が生活を営むうえで最もベースとなる居住空間です。つまり住み手の人間性をきちんと読み取らないと設計はできません。設計以外の打ち合わせも必要で、設計費だけでは割に合わないケースもあるでしょう。建築家は「贈与の心」を持っていることが重要なのです。そこを見抜くのは施主の胆力に他なりません。
引き算が本当の要望を明確にしてくれる
初めての家づくりは情報を集めすぎてしまう傾向にあります。仕方がありませんが、敷地の広さ、予算とのバランスの両方が大事です。例えば10個の要望を出したら、まずは5個、そして7個と諦めないといけません。おそらく葛藤もあるでしょう。それでも次に「どうしても削れないもの」を3個選びます。さらにその3個の序列をつけます。そして最後の最後に残った要望こそが、あなたの本当の要望なのです。
この作業をすることで、自分が本当に欲しかったものは何かを見つめ直します。そこに自分たち家族が家を建てる意味を見出すのです。
削っていく作業は簡単ではありません。しかし、それらを建築家と議論していく中で信頼関係が深まっていくことでしょう。こうして要望が明確になることで、家づくりに対してのコンセプトが定まり、プランニングができていくのです。これこそが理想の家づくりを叶えるはじめのステップと言えるかも知れません。
佐川からのアドバイス
家づくりは拘れば拘るほどの美の追求と、それに対するコストの問題と闘わなければなりません。しかし、そうした中から代案や現場からの提案など様々なアイデアが出てくるものです。
信頼は案外、贈与の中から生まれるものです。住宅設計を単に金銭の目的だけで仕事をするのであれば、おそらく住宅の魅力ややり甲斐から遠ざかっていくような気がします。個人の発注者だからこそ、喜びも大きくストレートに返ってきます。それこそ住宅設計の醍醐味だと考えます。
発注者とそんなチームづくりができ、納得してもらえた家づくりができると、その発注者から新しい建主を紹介してもらえたりもします。
信頼できる建築家は始めに「贈与の心」があり、次に「金銭」です。これが、始めから「金銭」になっていると竣工した後、発注者との関係性は薄れていくような気もします。特に住宅の場合は経験上、その傾向が強いと感じています。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。