家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
旗竿地・再建築不可住宅を安く買って心地よく住む
問題ある土地は解決できればお買い得になる。
土地を探す際、日当たりが良く、地形や道路付けも良いとなれば当然それなりの価格になります。
一方、近年よく出廻っている土地情報に旗竿地(はたざおち)という物件があります。時には再建築不可というあまり聞いたことのない物件情報もあります。これらの物件情報に共通していることは、一般的な土地価格と比較して安いことです。安いということはそれなりに問題や課題もあるということです。しかし、問題や課題がその人自身にとって、それ程気にならなかったり、設計力で解決できればとてもお買い得な物件情報とも言えます。それぞれにどんな問題や課題があるのかを探っていきましょう。
旗竿地とは?再建築不可とは?どういう土地ですか?
<旗竿地とは>
細い路地を通った先にある奥まった土地のことです。旗に竿を付けた様な形状をしていることから「旗竿地」や「旗竿敷地」と呼ばれています。また、「路地状敷地」「敷地延長」などと呼ばれることもあります。
<再建築不可とは>
一言でいえば、更地にした後に新たに建物を建てることができない土地のことです。
下図ような土地ですが、条件によっては可能な場合もあります。
建築基準法では道路(4m以上)に2ⅿ以上接していない敷地は原則建物を建てることができません。この接道義務が定められたのは昭和25年(1950年)なので、それ以前の建物は適用されませんでした。全国における再建築不可住宅の数は約330万戸あり、意外と多いのです。
(2013年住宅土地統計調査によるデータ)
旗竿地・再建築不可住宅のメリット、デメリット
<旗竿地のメリット>
・一般の土地と比べると15~20%は安い
・道路から奥まっているため、家のすぐ前を車や人が通ることはないので比較的静かである。また、万が一子供が玄関から急に飛び出しても安全です。
・敷地までの細い路地にタイルを張ったり、バラのアーチ、花壇などの玄関アプローチとして楽しく演出することができます。
<旗竿地のデメリット>
・周囲四方が囲まれていることが予想されるので、日当たり、風通しが悪くなります。特に1階は昼間でも電気をつけることになります。
・公道に接道する部分が2m以上になっているため、2mギリギリの敷地が多いです。軽自動車としての駐車場であれば問題ありませんが、普通車だと少し窮屈な感じがします。
・工事の際、給排水や電気配線など敷地延長分で、工事費が割高になったり、運搬費なども同様に若干高くなることもあります。
<再建築不可住宅のメリット>
・土地が安い(中には半値以下もあり)
・固定資産税評価、相続税評価が低く、不動産取得税も安いです。
・リフォームすれば十分住めるようになりますが、リフォームする際、留意するポイントがあります。
・周囲に広い土地があれば再建築も可能です。(建築基準法43条、ただし書き道路)
<再建築不可住宅のデメリット>
・一般の住宅ローンは適用できないケースが多いです。
・売却する際、買い手が見つけづらく不動産会社などに断られてしまうケースもありますが、中には積極的な会社もあります。
・万が一火災などがあった場合、新築することはできません。
旗竿地を買って心地よく住むアイデア
土地を安く入手できる分、その費用を建物に回すことができます。旗竿地は周囲からの採光は期待できないので、上部から採光を取り入れたプランを考えなければなりません。
中庭形式の間取りや吹抜を設けて高窓、トップライトから採光を得る方法です。あるいは、1階と2階を逆転させ2階にキッチン、ダイニング、リビングを設け、1階を寝室とする案です。1階はやや暗く、寒くなるので床暖房などで対処すると良いでしょう。
再建築不可住宅を購入して住む心構え
一般的に古い物件が多いので、リフォームをして住むことになります。増築や改築はできませんが、建物の骨格である柱や梁などを残して、建物の形状を変えなければ問題ありません。基礎・土台を補強し、新しい外壁材、屋根材さらには設備機器等の交換、二重窓などのリフォームをすることになります。
将来売却が難しいのですが、もしその場所がとても便利で、気に入ったのであれば購入して自分の人生で使い切るといった発想もできます。あるいは、隣家に安く売っても良いでしょう。
なかには、道路幅1ⅿしかなかったのですが、前に住んでいる人と仲良くなり、1ⅿ分売却してくれて2ⅿになったので新築を建てられる土地になったという例もあります。
佐川 旭からのメッセージ
旗竿地、変形敷地、あるいは狭小地など、何らかの問題のある土地は安く買うことができます。そこに画一的な間取りプランで家を建てても、益々住み心地の悪い住まいになってしまいます。
安く購入した分きちんと設計料を払って設計力のある建築家にお願いすることです。
また、建築不可住宅などもネットで調べて得意とする不動産業者、あるいは経験ある建築家に相談して、物件見学から一緒に見てもらうことです。
そういったプロセスの中から「不動産」ではなく、むしろ「動産」を買うという発想も生まれるかもしれません。ITの発達により住むという定義がこれからもっと柔軟になり、二地域、三地域と季節ごとに住む場所を変えて仕事をする時代になるかもしれません。そんな時はもちろん賃貸という考えもありますが、再建築不可住宅をこだわりのある住宅へリフォームをし、心地よく人生を刻んでいくという発想もあるのではないでしょうか。それが動産という考え方です。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。