家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
「アフターコロナ」その後の住まいづくりで考えておくこと
2つの視点で考えてみる
新型コロナウイルスの感染拡大が、今後私達の生活にどのような影響を与えるのか。住まいづくりにあたってどんな考え方を持てば良いのかを、今回は特別なテーマでまとめてみました。
私は2つの視点を取り上げてみました。ひとつは「安心に住めるための健康住宅」。もうひとつはテレワーク(在宅勤務)など、働き方にも変化が起きることに着目し、「集う価値を見出す空間」がより求められていくのではないかと考えています。
「健康住宅」と「集う価値を見出す空間」とは
・健康住宅により近づく家づくり
一般に、健康住宅とは化学物質を使用しない自然素材を使った家ということで、約20年前に聞かれるようになり、2003年にシックハウス法が施行されました。主な内容としては、ホルムアルデヒドを含む建材の使用面積で制限と、換気扇設置の義務化でした。
今回新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅時間が増え、仕事などで外出する家族からの家庭内感染も少なくない中、新しい生活様式にはこまめな換気が求められました。
健康住宅のとらえ方は、これまで省エネだったり温熱環境だったりと、いかにストレスを取り除くかという点に重点を置き、健康住宅なるものに近づく努力をしてきたようにも感じます。それぐらい健康住宅という概念が広くとらえられているのです。その中で、あたり前である換気・通風計画が重要になってきたのです。
かつての日本家屋は隙間だらけの家だったので、それほど換気に気を配らなくても、自然に換気・通風は出来ていたのです。しかし、近年の高気密・高断熱化された住宅は、隙間風が入ってこない住まいになりました。その結果、計画的な換気・通風計画を設計段階から考えておかないと、結露でカビやダニを発生させたり、あるいは室内に熱がこもり、エアコンの使いすぎで過乾燥を引き起こすなど、健康を害する一因にもなっていくのです。
換気は自然換気と機械換気があります。自然換気で最も注意しなければならないのは、ひと部屋に2つ以上の窓をつけ、風の通り道をつくることです。風の通り道がない間取りは良くない間取りということです。
〈風の通り道がない間取り例〉
機械換気には第1種換気方式から、第3種換気方式まであり、2時間で室内の空気を入れ替える能力が求められています。あたり前ですが、給気と排気の位置をよく考え、ベストな能力を発揮できる換気計画が重要です。人は一日あたり、500mlペットボトル約2万本分の空気を吸い込んでいると言われています。住まいは睡眠も含めて一日で一番長く過ごす場所です。在宅勤務となればなおさらです。
快適な室内環境を維持するために、これまでよりも換気に注意をはらい、より健康住宅に近づく住まいづくりを心がけていきましょう。
・集う価値のある家づくり
いつの時代も甚大な災害は何らかの形で社会のあり方を変えてきました。新型コロナウイルスが終息した頃には、日本人の働き方や生活様式が劇的に変わる可能性があります。
日本は働き方改革や男女共同参画社会、都市への人口集中、地方の疲弊など、これまで多くの問題を抱えつつも、なかなか解決が進みませんでしたが、コロナの影響はこれらの解決に向けて一つのキッカケを与えてくれるのではないでしょうか。
例えば、自然豊かな地方の村に住み、普段はテレワークで仕事をして必要な時に都市に出向する。あるいは在宅勤務となり、空いた時間に子どもと遊び、食事を一緒に摂るといった、今まで経験できなかった家庭生活の充実が得られるでしょう。
今のネットワーク環境があれば、オフィス、学校、役所など、わざわざ行く必要もありません。満員電車に乗ることもなく、無駄な時間を費やさず効率性もあがるでしょう。
つまり、極端にいえば人々が集まる場所(建物)は要らないという考え方ができます。もし、それでも集うことで空間を共有することの価値が残るとなれば、そこにどんな建築が必要かを今まで以上に考え、工夫を凝らさなければならないでしょう。これからの住まいづくりのポイントは、集うことに価値を見出す空間をどのようにつくっていくかが重要な時代になっていくということです。
効率的で、家事ラクな間取りも勿論良いでしょう。しかし、これまでとは多少なりとも違った新しい生活様式のあり方を家族で考えてみてはいかがでしょうか。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。