家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
19坪の土地に独身女性が両親のために建てた家
条件の悪い土地に個性ある住まいをつくる
土地には建物が建てやすい敷地もあれば、不整形で建てづらい敷地もあります。しかし不整形だからと言ってあきらめてはいけません。設計の工夫で個性ある住まいをつくることも可能です。
<具体例>
私が依頼された住宅設計で、道路より敷地が約30センチ下がっていて、道路には緩やかなカーブがあります。南側は隣家があるため採光は期待できません。
敷地面積は62.61平米(約19坪)と狭く、そこに木造3階を建てたいという希望でした。
条件はとても良い土地とは言えません。
<条件>
・敷地:62.61平米(約19坪)
・建ぺい率:60%
・容積率:200%
・北側斜線:5メートル+1.25勾配
・家族人数:5人
・東側の道路に6.5メートル接する
<主な提案>
・南側採光は期待できないので、中庭を設け採光を得る。
・1階リビング・ダイニングは北側斜線をいかしてトップライトを設けて、落ち着いた光をとり入れる。
・収納不足を出窓収納や階段収納で補う。
・両親の寝室は2階ですが将来も考えて1階に予備室(子供部屋として利用)を設ける。
・物干しスペースは3階になるので、洗濯機も3階に(家事ラクに)
設計を終えて
東京都内に住むTさん(45歳)が私の著書を読んで頂き事務所に訪ねて来られました。独身女性で家庭の事情でお姉さまのお子様2人を引きとっていて、5人で暮らす家を設計してほしいということでした。私はてっきりお姉さまのお子様を引き取ることになったので家を建てようと決心したのかと考えていました。
それがなんと、ご両親が来年結婚50周年を迎えるので、新築した家に住まわせてあげたいという理由でした。女性は一般OLなので決して年収が高いわけではありません。
しかし私はその生きる姿勢に、そしてその前向きさにつき動かされ、「あー、まさに家づくりは人生の物語をつくっていくことだなあ」とあらためて教えられました。
そして打ち合せを重ねながら信頼関係を育み、50年前に結婚式を挙げた日と同じ日に無事建物のお引渡しをすることができました。
帰り際握手を求められ、そのご両親の手がいつもより温かく感じました。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。