家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
地震に強い家をつくる!
大きな地震が次々と
阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)から20年が過ぎ、その間も新潟県中越地震、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)など大きな地震が発生しています。又今後、首都圏直下型地震や南海トラフ地震、東海地震などの地震がかなり高い確率で起きると予想されています。これから家を建てる人はもちろん、リフォームを考えている人も耐震性についてあらかじめできることはしっかりと対策を立てておくことが求められています。
今年4月14日に発生した熊本地震などを参考にしながら地震に強い家をつくるにはどうすればよいのか方向性を探ってみましょう。
熊本地震で倒れた家の特徴は
熊本地震で倒れた家の特徴は次の5項目にまとめることが出来ます。
①地盤崩壊、不同沈下による被害が多くあった。
②モルタル壁の中が腐朽し、蟻害による被害もあり建物の劣化が激しかった。
③新旧和風住宅など壁量不足による被害も多くみられた。
④増改築をして建物の形が悪く、さらに屋根などが複雑な形になっていた。
⑤筋違いの位置、そして接合金物の不具合があった。
今回の地震は強い地震が2回続けて発生しました。1回目は大丈夫でしたが2回目の強い地震で倒れた家が多かったのもこれまでとは違った地震です。
今の建築基準法は関東大震災(大正12年)の2倍規模の地震に耐えられる様に定められています。それでも今回の熊本地震は強い地震の後、さらに断続的に続くという想定外の地震でもありました。今後はこれらの教訓をいかしながら家づくりに取り組むことが最も大切なことです。
熊本地震から学ぶチェック項目
間取りや内装などは楽しく気軽に家づくりに参加できますが、耐震となると専門的なことなので設計士に任せる人がほとんどかもしれません。
しかし、一般の方であっても資料を集めることや、専門家から話しを聞くなどできることはたくさんあります。特に次のチェック項目などは自分で調べたり、設計士や現場監督の方に説明を受けたりすることで確認することができます。設計士などに遠慮しないで聞いてみて下さい。
①建築しようとしている土地は昔どのように利用されていたかを役所などで調べる。
②地盤調査のデータを確認し、説明を受ける。
③地盤調査に基づいた基礎形状になっているかを設計士に確認する。
④間取りをみて、どこに耐力壁があるのかを確認する。
⑤木造の骨組みができた際、現場で耐力壁、金物等の説明を受ける。
地震に強い家をつくる
良い業者を選ぶ
家づくりは並んでいる商品を購入するわけではなく、各専門業者(職人)が、それぞれつくりあげていきます。当然プロ集団は専門用語を使って工事を進めていきます。したがって一般の方が工事の内容や進め方の全てを理解し、細部までチェックするには難しい部分もあり、建築工事についてはプロ集団に委ねるウェイトが大きいことも確かです。
そのため、良い家をつくるには、良い業者を選ぶ必要があります。つまり建主はつくり手が良い業者であるかどうかを見極めなければなりません。
その見極めのポイントは、「大切な部分を丁寧に説明し、わかりやすく数字などを使って示す事ができているかどうか」です。
つくり手はこれまでどちらかというと建主などの質問に「経験と勘」を基に説明してきました。もちろん経験と勘も大切ですが、明確に数字で示されることで一つの指標ができ、それが安全安心につながっていくのです。
耐震等級3を目指す
『どうすれば地震強い家をつくることができますか?』
日本住宅性能表示基準という指標があり、この中に「耐震等級」という項目があります。(末尾※参照)地震の規模にもよりますが、例えば「耐震等級1」であっても横方向の壁と縦方向の壁に耐力壁が入っていて、地盤がしっかりしていれば建物が崩壊することはないと思います。命を守ることはできます。地震の力を受け止めるばかりではなくバランスよく力を逃してやることも重要な考え方です。
しかし、より地震に強い家を考えるのであれば、それはズバリ住宅性能表示における耐震性能の最高ランクの「耐震等級3」とすることです。
「耐震等級3」とは、「建築基準法規定基準の1.5倍の強度です。もちろん建築費用もかかりますが熊本地震などでは想定外のことが起きましたので、「耐震等級3」で検討するという考え方も今後は広まってくることが予想されます。
制震・免震構造のプラスアルファもあり
熊本地震以降、制震や免震構造への関心が高まっている様です。しかし、これらはプラスアルファとして考えることが良いでしょう。例えば「耐震等級1」にして、それにプラスアルファとして強さを見込むといった考え方ではなく、あくまでも想定外の地震が起こることを考え建物本体を「耐震等級3」にした上で、制震・免震も措置をとっておくという考え方です。
優先順位を明確にして対策を立てる
家づくりに対する耐震性能はどこまでコストを掛けたら安全なのかきりがありません。例えば高度な耐震性を備えた家を建てても、耐震については近隣の環境に影響を受ける部分もあり、なかなか判断が難しいところがあります。なかには建物より地震保険の方にコストを掛ける人もいるでしょう。どこに優先順位をもって費用をかけるのか、全体のバランスを考慮しながら対策だけは十分にしておくことが重要です。
災害はいつも想定外です。心構えだけはしっかりと持ち対策を立てておくに越したことはありません。
※耐震等級3:日本住宅瀬能表示基準(平成13年国土交通省告示第1346号)1-1耐震等級(構造躯体等の倒壊防止)に定められている等級3の基準。『極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力の1.5倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度。』
※耐震等級1:『極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力に対して倒壊、崩壊等しない程度。』
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。