家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
擁壁工事の必要な土地をあえて買う?それとも?
擁壁工事をする・しない
物件を探していて「ここは擁壁工事が必要です」という土地があります。擁壁工事とは、高低差のある土地の傾斜が崩れないように斜面を安定させるための工事です。
造成された土地では切土や盛土によって土地に高低差が生じるケースもあり、鉄筋コンクリートで擁壁をつくります。ポイントは斜面の土地を安く買って擁壁工事をする、あるいは高基礎にして建築物をつくる、またはスキップフロアなど土地の形状に応じて様々なプランニングが考えられることです。
まずは擁壁に関しての基礎知識を理解していきましょう。
そもそも擁壁工事はどんな時に必要?
もし購入を検討している土地があって、仮に高低差が2m以上ある場合、各自治体は「がけ条例」を定めており、擁壁を設けることが義務付けられています。高低差はどこからどこまでなのかなど詳細な内容は、各自治体によって多少異なりますので、まずは自治体に確認することです。
〈 東京都のがけ条例 〉・・・ (東京都建築安全条例第6条)
高さ=Hmのがけに対して崖下や崖上に家を建てる場合は、崖からHm×2以上離して家を建てる、あるいは擁壁をたてる必要があります。
擁壁工事はどんな構造形式で?
一般的には鉄筋コンクリートでつくります。その一番の理由は、どんな高さでも構造計算で安全度をチェックすることができるからです。ブロックでつくる方法もありますが、あまり高く積むことはできません。ただ、鉄筋コンクリート擁壁よりは費用が安くなるでしょう。
○構造形式
鉄筋コンクリート擁壁には大きく分けて次の3形式があります。3形式とも地中に埋まる底盤部分が水平方向に伸びることで垂直に立つ擁壁を支えます。3形式は敷地条件に応じて使い分けられますが、よく使われるのはL型や逆L型です。敷地を有効に使う事が出来るからです。
擁壁工事の費用は?
鉄筋コンクリート擁壁工事は1㎡あたり5万~10万円を目安に考えて下さい。高低差のある土地なので敷地条件が悪く、道が狭くて4トントラックは入れない、あるいは通行制限をしないと工事ができないとなると運搬費や間接経費が増額になります。1㎡あたり5万~10万と幅があるのも現場の状況に応じて大きく変わるからです。擁壁工事の費用が建物費用にも大きく影響し、心配な場合は早めに見積り金額を提出してもらうことです。自治体によっては、助成金もあります。事前に調べておくと良いでしょう。
佐川旭からのコメント
土地を探していると更地ばかりとは限りません。なかには古家付きの土地もあるでしょう。あるいは気に入った中古住宅に崖があり、当時のがけ条例の基準はクリアしているもののかなり築年数が経っていて、調べたところ現行の基準はクリアしていないということもあります。更地ならまだしも中古住宅が建っていての擁壁工事は、機械の搬入経路や運搬など、かなり制限されますので事前の十分な検討が必要です。また、古家付きで古家を解体して新築するにしても仮に既存擁壁があれば鉄筋コンクリート自体の寿命は50~60年が目安です。経年劣化でコンクリート擁壁が壊れるということはありませんが、擁壁には必ず地中に溜まった雨水を抜くための水抜き穴があります。土の中の水がうまく抜けているかなどをチェックしておくことが必要です。土の中の水がうまく抜けないと、その水圧が擁壁を壊すこともあるからです。
今回は擁壁に関してまとめました。仮に気に入った土地が安く手に入りそうだが敷地内にはかなりの高低差があって迷っている場合は、建築家に相談する事です。ただ単に擁壁をつくることばかりでなく、敷地内の高低差をうまく活用してプランニングしてくれるかもしれません。変形敷地や狭小地は建築家の腕の見せ所なのです。変形敷地を安く購入し、その費用を建築家の設計費用に廻し、建築家は設計力で魅力ある土地に変えてくれるでしょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。