家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
建築家に依頼することとは
一級建築士と建築家は違います
一般に住まいの設計を依頼するには、住宅メーカー、工務店、建築家の3つに大きく分けることができます。なかでも、こだわった住まいづくりをするために建築家に依頼をしたいという人も多くいます。しかし、実際は建築家の果たす役割をきちんと理解していなく、なかには一級建築士であれば建築家と理解している人もいるようです。厳密に言うとそうではありません。一級建築士は国家資格で定義されていますが、建築家は定義するものがないのです。医師や弁護士のような専門職とは異なり、資格や制度による明文化された説明や根拠はないのです。したがって、建築家と名乗るには自分なりの明確な理念をもつことが必要になってくるのです。自分達の住まいを建築家に依頼しようと考えた場合、この理念をよく理解した上でお願いすることが大切です。
そうでないと竣工後、住みづらかったり、メンテナンス費用がかかりすぎる等々、不満だらけの住まいになってしまうのです。そこで、改めて建築設計者の分類とそれぞれの違いを明確に理解しておきましょう。
建築設計者の分類とは
建築設計を生業としている人の呼び方には設計士、建築士、建築家と3通りが一般的に多く使われています。時には設計屋と言う人もいます。多くは「設計士さん」であり、建築士や建築家という呼び方をする人は意外と少ないと思います。おそらく「設計士さん」と呼ばれるのは住宅メーカーや工務店にいる設計者と多く接する機会が多いからであろうと推測されます。ちなみに日本全体で注文住宅は年間26万戸建てられ、そのうち建築家がてがける住まいは約1.1万戸です。約4%前後で推移していますが、近年は増加傾向にあります。
〈建築設計者の分類〉
・縦軸方向は作品性が高い(芸術)と商品性が高い(技術)指標で、横軸方向は元請けか下請けで受注の在り方を示しています。
・建築家の住まいは、社会的メッセージをとり入れながら自分なりのアイデンティティを建築に表現します。一方、建築士や設計士は施主の意見を聞きながらもより良い住まいづくりを目指します。
建築家は資格や制度による裏付けはなく「自称」ということです。建築家は強い自己認識を持ち続けることが必要で、併せてアイデンティティの確立も求められるのです。
住まいを建てる側とすれば、その建築家のつくる建物のテイスト感を含めた作品を自分達家族が受け入れることができるかといった、建築家との相性を見極めることが大切になってきます。
建築家(建築士)の仕事
仕事内容を大まかに分けると、設計と監理業務です。設計の中には基本設計と実施設計があります。これは建築士であっても建築家であってもそれ程変わりません。
・基本設計・・・施主の要望を聞き、予算との兼ね合いを考慮しながら図面をまとめあげていきます。ここではスケッチやラフ模型、あるいはコンピュータ・グラフィックスなどを用いながら施主との打ち合わせを繰り返していきます。予算と法規の中で、施主の要望をどれだけ満足させることができるかがこの基本設計段階でとても重要です。
・実施設計・・・基本設計において、おおよその方向性が決まれば実施設計と呼ばれる詳細な図面の作成に入ります。延床面積40坪 (132.0㎡)前後の木造住宅であればA3サイズの大きさで約40〜45枚位の図面を書きます。この図面数が他の依頼先とは大きく違うところです。図面がしっかりしていないと予算も現場もトラブルの源になってしまうからです。
・確認申請と施工業者の決定・・・実施設計が完成すれば確認申請を行って審査機関の許可をいただき工事着工となります。これらを前後して施工業者を決定するための見積もり依頼を施工会社数社に出して一般的には最低金額を提示した施工業者を選択します。実施設計の内容が反映された見積もりになっているかをしっかりチェックすることが大切です。
建築家(建築士)の報酬
・設計料の内訳は設計7割、監理3割
建築家がいただく設計費用は、国土交通省の規定に沿って設計報酬の基準が定められています。公共建築物の設計は基準どおりに請求されますが、個人住宅の場合は建築家が独自に設定した料率によって決めているところがほとんどです。一般的には「総工事金額の○パーセント」といった習慣的な要素によって決められています。例えば、木造住宅2階建で工事費が3,000万円の場合、設計費用は300万円~360万円位です。つまり10%〜12%位です。さらに設計費を仮に300万円とした場合、基本設計と実施設計の占める割合は、7割の210万円が設計業務費用、残り90万円が監理業務費用になります。監理料とは施工が始まって図面通り適切に施工が行われ、指示された製品や品番が採用されているかをチェックする業務です。設計と施工をはっきりと区別し、施主側の立場に立って整理を行う体制になるので施主側としてはとても安心です。設計と施工が一緒になるとどうしても施工会社寄りの判断になりがちです。
施主は「自分達の住まいをつくるのは一生に一回」と言いながら画一的な商品住宅を選択してしまう傾向があります。それは価格が明確に提示されていて求めやすく、さらに展示場を見ることでイメージしやすいのかもしれません。しかし、仮に300万円の設計料を支払うとなるとこのお金の価値をどう考えるかです。近年、住宅着工数は減少しているにもかかわらず建築家に依頼して着工している人数は減少していません。むしろ増えています。S N S等によって気軽に相談できたり、マッチングサイトなど知り合う機会も増えたことも理由にあるかもしれません。さらに近年は自分たちにふさわしい住まいづくりを真剣に考え、個性ある住まいを手に入れようとしている傾向もあります。建築家と言っても人それぞれです。どのあたりの作品性を目指しているのか議論を重ねていくうちに自分たちの目指すライフスタイルが見つかるかも知れません。次回は建築家のタイプにはどういうタイプがあるのかをまとめます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。