

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
耐震等級を知る
耐震改修工事は持ち家全体の1.9%
2023年総務省が実施した「住宅・土地統計調査」によると、2019年以降に耐震改修工事が行われた持ち家は、約63万7千戸で、持ち家全体の1.9%でした。この調査は5年ごとに行なわれますが、この数字について皆様はどう思われますか?
南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないと言われ、昨年は能登半島地震が起こり、震度7が記録されました。このような背景を踏まえ、あらためて耐震等級や耐震基準の理解を深め、今後の家づくりに役立てていきましょう。
耐震等級と耐震基準の違いは
はじめに、耐震等級と耐震基準の違いを説明します。建物耐震の最低限の基準を定めたのが、耐震基準で、さらに高い性能基準を定めたのが、耐震等級です。
耐震等級には1~3まであり、耐震等級1に相当するのが建築基準法で定めた耐震基準と同程度とされています。
旧耐震基準と新耐震基準の違いは
専門家のアドバイスで「1981年以前の建物は旧耐震の建物なので、中古物件を購入する際は注意しよう」といったコメントをみることがあります。
1981年以前の耐震基準は震度5強相当の地震では損傷しないという基準でした。新耐震基準では震度6強〜7に達する大きな地震に対しても、持ちこたえられるよう耐震性能が改正されたのです。
1981年5月31日まで適用された基準 → 「旧耐震基準」
1981年6月1日から適用された基準 → 「新耐震基準」
と区別しています。これが中古住宅やマンションなどを購入する際のポイントになっているのです。
耐震等級を決める4つのキーワード
耐震等級を決めるには4つの大事な要素があります。
①建物の重さ ②耐力壁や柱の量 ③耐力壁の配置 ④基礎・床の耐震性 です。
それぞれについて説明します。
① 建物の重さ
地震の揺れや衝撃は、建物の重量があるほど大きくなり、反対に軽いほど小さくなります。構造の重量は規模にもよりますが、
鉄筋コンクリート造 > 鉄骨造 > 木造
となります。 建物の重さに応じて、地盤や基礎の設計を考えることになります。
② 耐力壁や柱の量
地震によって起きる力は、水平方向や垂直方向にかかってきます。それに対して変形しにくくする、壁や柱に高い強度をもたせることが重要です。耐力壁や上下階の柱の位置などを十分に検討しなければなりません。
③ 耐力壁の配置
地震が起きた際、警戒するのは揺れの負荷が集中することで「捻じれ」が生じることです。この捻じれの力を効率よく分散させることがポイントです。例えば、1階と2階で耐力壁の位置や向きを揃えることや、建物四隅を支える壁をつくるなど、全体のX方向とY方向のバランスを考慮した耐力壁の配置が大切です。
④ 基礎・床の耐震性
耐震性能を向上させるには、建物の土台となる基礎や床の強度も高める必要があります。
木造住宅でいえば、近年の基礎の多くはベタ基礎です。以前は布基礎でしたが、布基礎は建物を点で支え、ベタ基礎は面で支えると言われています。
面で支えた方が荷重を分散できるため、地震に強く、さらに床の組み方や下地の厚さを変えることで強度を増すことができます。
耐震等級1・2・3の違い
耐震等級1・2・3のそれぞれの違いについて説明をします。
耐震等級1
建築基準法で定められた耐震基準に準じた内容で、震度5強相当の力に対して、大規模な工事が伴う修復を要するほどの著しい損傷が生じないように計画された耐震基準です。
耐震等級2
耐震等級1で想定する、地震力の1.25倍の力に対して耐えられることを示しています。
震度6強~7程度の1.25倍の強さの地震が生じても、倒壊・崩壊しない強度をもっていることを指しています。
耐震等級3
耐震等級1で想定する地震力の1.5倍の力に対して耐えられることを示しています。長期優良住宅の認定を受けるときも耐震等級3以上であることが条件となります。
一般に警察署や消防署は耐震等級3と同等の強度を備えてつくられます。復興活動の拠点とされるためです。
熊本地震による益城町の当時の被害状況について、耐震等級3とそれに満たない耐震等級との違いがよくわかります。
建築基準法レベル(301棟) | 耐震等級3(16棟) | |
無被害 | 60.1% | 87.5% |
軽微・小破・中破 | 33.6% | 12.5% |
大破 | 4% | 0% |
倒壊 | 2.3% | 0% |
※国土交通省住宅局(熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員報告書より)
これらのデータからも耐震等級3の建物であれば、震度6強~7の地震が繰り返しても、「中破」以上になることはみられなかったのです。なので、耐震等級3の建物なら「大破」や「倒壊」することはないということがわかります。
佐川からのアドバイス
耐震等級が高い住まいは、地震に強いことで安心安全に長く暮らせるだけでなく、住宅取得時や売却時にもメリットがあります。一方で認定を受ける必要があるので、手続きの期間を考慮して早め早めで計画を進めることです。
そして、一番の懸念点は建築コストの問題です。建物を建てた後でも耐震改修工事はできますが、先述したとおり、1.9%とかなり低い数字でした。予算が許せるのであれば、やはり新築時に計画することをおすすめします。一般に建築予算は限られていますので、耐震等級を上げることは難しくても、制震ダンパーを採用する等の地震対策をして家づくりを検討してみて下さい。
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佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。