家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
「間」があると住まいは楽しい
はじめに
東北生まれの私は小さい頃に親父の実家へ行くと、広い土間があり、土間から続いた囲炉裏がありました。土間から板の間に上がると、その先には広い畳の間があり、黒光りする大きな建具で区切られていました。一番奥の和室には床の間があり、子供心にそこに通す人は特別な人のような印象がありました。
そして、和室には長い縁側があり、そこで遊んでいて、夕方になると雨戸を閉める手伝いをしていた記憶があります。
2つの間にあるもの
戦後日本の住まいは「LDK」に代表されるような機能や目的が重視されるようになりました。すべての空間が意味づけされ、「間」という曖昧な空間は姿を消しつつあるのです。
「真(ま)」にはもともと「二つで完全」という意味がありますが、「間(ま)」にはその「二つの間にあるもの」という意味もあるようです。
日本の伝統芸能である能は、鼓の音の始まりと次の音との間によく沈黙があります。この沈黙をあえて表現することで音の変化やつながりを知覚させているのです。
住まいにある「間」も空間を完全に隔てるものではなく、障子や襖を閉めても隣の部屋や外界とをつなげるものだったのです。そこで感じている気配を重んじることで家族の間に礼節が生まれ、互いの気持ちを「察する」奥ゆかしさが育まれてきたのです。
間取りを考える際、リビング、ダイニングは明るくしたい、広さは10畳とか、子供部屋は2部屋、家事コーナーもほしい、できれば食品庫もほしい…といった具合に目的や機能ばかり優先した住まいは、当たり前ですが、目的や機能を失った時には「間・抜けの家」にしかならないのです。
仮に人数分の子供部屋をつくっても子供達が独立してしまえば、納戸あるいは夫婦別室の寝室になるしかありません。
住まいの中に「間」があると、空間に柔軟性ができ、家族の変化にも対応し、コミュニケーションを誘い出す気配を醸し出してくれる可能性をもっているのです。
展示場を見に行った際に、それなりにつくられていても何となく画一的だったり、機能性ばかり重視した間取りが提案されていたり、しっくりいかないと感じた時は「間」を明確にした間取りを考えてみてはいかがでしょうか。
間のつくり方を考えてみる
間というのは部屋の用途と用途のあいだにあったり、内部空間と外部空間のあいだにあったり…と、ある意味そこに変化を与えたり、安心感や開放感を与えたりします。
現代の住まいで言えば中間領域ともいえるかもしれません。考え方は次の2つに分けるとわかりやすいと思います。
① 屋内空間でありながら外部を感じられるようなスペースづくり。
② 屋外空間でありながら屋内の延長と感じられるようなスペースづくり。
です。
これら2つは住宅密集地なのか、それとも寒冷地なのかなど敷地の環境によってあり方は変わってきますが、さまざまな機能を持たせることでより有意義で魅力的な空間になっていきます。
実例を通して
① 屋内空間でありながら外部を感じられるようなスペースづくり。
住宅密集地なので上部にトップライトを設け、柔らかい自然光を採り入れることで外部を感じさせる土間的な役割をはたしている。子供の成長に応じて部屋を広げることも可能で多用途的な使い方を提案した。
② 屋外空間でありながら屋内の延長と感じられるようなスペースづくり。
比較的温暖な地域なのでダイニング側とリビング側の両方向にデッキを設け、季節に応じた使い方ができるように提案した。例えば外での食事なども屋根があるので天候に左右されない使い方ができる。
佐川旭からのメッセージ
昔の間は、外の景色を眺めたり、風が通ったりと自然を感じられる場所でもありました。
しかし、現代の住まいは気密性や断熱性能は格段に向上し、環境としての間をつくる必要はなくなりました。むしろ現代の住まいでは生活スタイルの変化もあって空間の心地よさをつくる間のあり方です。
計画時に外構や植栽計画までをトータルに考え、より心地よさを演出した間(中間領域)のあり方をとり入れて、ワクワクする空間をつくってみませんか。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。