家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
地震に強い住まいは「剛」と「柔」で考える
関東大震災から100年
死者・行方不明者、約10万5000人という未曾有の被害をもたらした関東大震災の発生から、今年の9月1日で百年の節目となりました。
その後、阪神・淡路大震災、東日本大震災と、マグニチュード7超の巨大地震を経験しながら、住宅業界も耐震性の高い家づくりを目指してきました。
地震による被害は多くの場合、建物の構造や耐震性能、地盤の状態、建物の築年数、周辺環境等によって異なります。
これから新築や大掛かりな改修工事、あるいは中古住宅を購入してリフォームを考えている方は、近年の地震や今後予想される南海トラフ地震の特性を理解し、さらに地震に強い家づくりを考えておく必要があります。
地震対策には3つの方法
はじめに、基本的なことを抑えておきましょう。地震対策には「耐震」「制振」「免震」の3つの方法があることは多くの人が知るところです。なかでも一般的な家づくりは「耐震」でつくられています。
・耐震
耐震は丈夫な基礎をつくり、土台や柱、梁を太くし、筋かいの設置や構造用合板を貼ることで頑丈な「耐力壁」をつくり、揺れに耐える仕組みをつくりあげてきました。これまでの地震に備える家づくりは「耐震性能をいかに高めるか」に力点を置いてつくられてきました。
そこで、従来の耐震性能に加え、地震の揺れそのものを軽減する技術として開発されたのものが「制振」と「免震」なのです。
・制振
制振とは、文字通り振動を制するということです。壁の中に揺れを吸収する制振装置を設けることで、振動エネルギーを吸収し、揺れを減衰させて建物の構造にダメージを与えることを防ぐ効果があります。耐震のみの住宅と比べると、地震の揺れを30~50%軽減させることが可能です。費用も40~50万円+設置費(木造2階建、延べ面積40坪を目安)と比較的リーズナブルな方法です。
・免震
免震は基礎と建物の間に免震装置をはさみ、地面の揺れを建物に伝えないようにする仕組みです。住まいが地面から切り離された状態になるので、「耐震のみ」の住まいと比べると、揺れを80~90%も軽減できるのです。
ただ、施工が大掛かりで工期も長くなり、軟弱地盤では採用できません。また、隣家との離れが狭い場合、地震時に建物が水平に動くため、隣家とぶつかるリスクもあるなど、設置をすることに制約があります。コストは200~300万円程度とやや高めです。
耐震等級3にすれば大丈夫か?
2016年に発生した熊本地震は、震度6以上の地震が7回も発生し、余震は4,364回(平成29年7月31日 気象庁より)も発生しました。この余震によって、多くの建物が倒壊したのです。つまり、現行の耐震基準では、繰り返しの揺れに対して十分とはいえないのです。
現行の建築基準法の考え方は「震度5強~6弱程度の地震に対して、ほとんど損傷しないこと」「震度6強~7程度の地震では倒壊・崩壊しないこと」と定められています。とても強い家をつくるよう定められています。しかし、これはあくまでも「1度の地震のみ」を想定したものなので、2回、3回と続く「余震」については想定できていないのです。
であれば「耐震等級1から3※に等級を上げれば大丈夫か?」というと、そうとも言えない注意点があります。それは「共振」という現象です。共振とは、建物の持つ固有周期と地震の周期が一致してしまうと、建物の揺れが増幅され、実際の地震の揺れよりも大きく揺れる現象です。たとえ、耐震等級3の強い家でも、共振現象が起きると被害が大きくなる可能性があるのです。
※耐震等級…
現行の建築基準法の通りに設計すれば、「耐震等級1」になります。その1.25倍の強さは「耐震等級2」になり、1.5倍の強さは「耐震等級3」のランク付けとなります。
耐震と制振のセットで最大の効果を得る
繰り返しますが、「耐震」は強い構造躯体とバランスよく配置された耐力壁で地震に耐える構造です。「制振」は壁の中に設置された装置(ダンパーなど)が揺れを抑えて耐震性能を守る役割を果たしてくれます。「制振装置だけ」では効果がなく、耐震構造とセットで組込むことで効果が発揮されるのです。耐震を「剛」とすれば、制振は「柔」といえるでしょう。これからの地震対策の家づくりは耐震構造をもった建物に、制振を組み合わせて検討することが重要なポイントなのです。
制振装置には複数の種類があり、ゴム系や樹脂系、金属系、油圧系などの素材や、筋かいダンパー、仕口ダンパーなど形状や取付方法によって異なります。このあたりの選択は設計士にお任せした方がいいと思います。
いずれも揺れに対して変形することで作用し、地震エネルギーを吸収してくれるという効果は同じです。
住宅の改修工事で新規に取付けた制振ダンパー(油圧系)
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。