家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
新築ではなく、中古!ポイントは耐震強度
一番の不安は耐震
近年の住宅コストの上昇により「新築住宅を求めていたが、諦めて中古住宅を購入する」という人も多く見受けられます。そこで今回は「中古住宅」について考えていきたいと思います。仮に中古住宅を購入しようとする際、最も気になるポイントは構造の安全性ではないでしょうか?つまり「耐震」です。
旧耐震基準と新耐震基準
日本では大きな地震が起こる度に耐震基準の見直しが行われてきました。その中で、大きな見直しが1981年と2000年の改正です。「新耐震基準」は1981年6月1日以降に建てられたもので、それ以前の建物は「旧耐震基準」と呼ばれているのです。
さらに新耐震基準は、1995年の阪神・淡路大震災を受けて2000年6月1日に改正され、これが現在の耐震基準となっています。
旧耐震基準と新耐震基準の大きな違いは、旧耐震基準は震度5強の中地震で倒壊などの被害を受けないことを目的にしていたのに対し、新耐震基準は震度6強~7程度の大規模地震で倒壊・崩壊しないことを目的に基準が設定されているのです。
中古住宅物件の狙い目は2000年以降に建てられたもの
2000年6月1日に改正された現在の耐震基準の主な改正は、義務ではなかった「地盤調査」が事実上義務化されたことです。地盤調査により地耐力を検討することで、基礎の設計や地盤改良の必要性が判明するためです。
さらに、一般的な木造軸組工法は耐力壁で構造を支えるのですが、この耐力壁のバランスと壁量が求められています。また、木材同士を部位ごとに専用の金物で固定することが義務づけられ、耐震性能の向上がより図られたのです。
そしてこの年には、通称「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」も施行されたのです。柱・梁・床・屋根といった構造耐力上、主要な部分や、雨水の侵入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任を義務付けました。つまり住宅性能に関する表示基準を設け、住宅の品質向上を図った年でもあるのです。
これらの法律が施行され今年で24年が経過し、「中古住宅」として流通するようになってきました。このポイントも狙い目の一因といえるのです。
2000年以前に建てられた建築は耐震診断をする
分譲などの新築住宅と比べて、中古住宅は安いだけでなく、自分のライフスタイルにあわせて自由にリフォーム出来ることも魅力です。
リフォーム案が決まったら耐震診断を実施します。木造住宅の場合、仮に耐力壁のバランスが偏っている、或いは壁量が不足しているのであれば、リフォーム工事にあわせて補強することです。一般的には筋交いや合板等で耐力壁をつくります。更に耐震性を増したいのであれば、「制震ダンパー」といった制震装置を設置する方法もあります。ちなみに費用としては木造2階建て住宅(延床面積40坪前後)で60~80万程度(取付費込み)です。制震ダンパーは2回、3回と起こる余震に対して効果を発揮します。(このあたりの耐震性については、リフォームプランをつくってもらう設計者や、そこまでリフォームを要しない場合でもホームインスペクター等に診断してもらってください。)
リフォームで設置した「制震ダンパー」(設計:佐川旭建築研究所)
耐震リフォームを依頼する工事事業者の選び方
はじめに工事事業者を選ぶ前に、自治体や財団法人などでリフォームに関しての補助金を出している団体があります。まずはどのようなリフォームが補助金の対象になっているかを確認してみてください。近年は省エネ関連の補助金を出している傾向が多く見受けられます。
また、リフォームの相場として以前までは500万円以下が多くありましたが、近年は耐震リフォームを併せた工事で、1000万円を超える大規模なリフォーム工事も多くなってきています。その場合は、リフォーム会社ではなく、建築家に依頼して自分好みの住まいにデザインをしてもらう考え方もあります。リフォームというと単に改修すればいいというイメージもあります。しかし、リフォーム工事は新築工事より難しいところがあります。そのためリフォーム会社にも経験値が求められ、経験豊富な職人さんがいることが重要です。
リフォーム会社を2~3社選び、相見積もりをして安い会社を選ぶといったことも可能ですが、大きな工事金額であれば経験豊富な建築家、或いはリフォーム会社を選ぶことです。
近年は新築の着工数が減り、リフォーム工事に力を入れている会社も多くあります。HPでは綺麗事のメッセージを謳っていても、責任者と直接打ち合わせをする事や、会社の体制やメンテナンスの対応など総合的に確認したうえで、工事事業者を決めることが重要です。
建築は見えないものをつくり上げていくので、トラブルになりやすい仕事ともいえます。そのため、特に責任者の説明やコミュニケーション能力には気を遣って確かめることで、人柄もみえてきます。建築は人がつくっていくもので、商品ではなく「作品」と言われる所以がそこにあると思うのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。