家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
建築士ではなく建築家でありたい 佐川旭のメッセージ
はじめに
このたびアドバイスを担当する建築家の佐川旭です。
月1本のペースで住まいに関する考え方や具体例などをお届けします。この記事を読んだおかげで住まいを選ぶ心構えができたならとてもうれしいです。
まずは1年間宜しくお願いします。
言葉と暮らす
若い時、さくらの咲く季節に東北の小さな村に行ったことがありました。そこで出会ったおばあさんが「さくらの咲く季節を迎えると、秋の農作物の採り入れに念(おも)いを馳せながら、さくらを見るのですよ」と話されていました。
その地域では、さくらの「さ」は前置きの言葉で「くら」は物を納めておく蔵ととらえているのです。農作業の始まりを誘うように咲く満開のさくらに、厳しい冬を越すために重要な蔵が秋の実りの作物で満たされてほしいという意味をもたせたのです。
その頃私は自分らしい建築をつくりたいと模索していました。そこで、ものをつくる職業人として「かたち」をつくるとは一体どういうことなのか、あらためて考えるきっかけをいただいた言葉の意味でした。
「かた」をつくる「かたち」をつくることとは
かたとは「型」、鋳型のように同じ形を繰り返し生み出すものを意味しています。一方かたに「ち」がつくと、「いのち,ちから」など古代から日本人は自然に潜む霊的な力,眼にみえぬ生命力の働きを「ち」と名付け尊重してきました。体内をめぐる血、あるいは乳、自然の生命の息吹、風(ち)<東風(こち)>などです。これらの「ち」が血や乳となってかたのなかを駆け巡るのです。ともすれば静止し安定しがちな「かた」をゆさぶり、「かた」は生きた「かたち」へとその姿を変えていくのです。
私自身はこの“ち”を土地のもつ周辺環境から、あるいは施主の背景に潜む生き方から読み解き形にすることを心がけてきました。
現在建築家と名乗っています。しかしまだ建築士かも知れません。それは自分の中に、建築士は技術や技能を修了した人、建築家は哲学(美学,倫理,論理)を持っている人と考えているからです。建築は哲学がなければ商品になってしまいます。人生で一番高い買物と言われる土地(とち)や建築(けんちく)は単に商品を買うこととは違います。
やはり自分の人生を表現することにそのお金を使うべきではないでしょうか。
言葉をかたちに
設計事務所を開設して35年、この間に教えられたことは技術の向上はもちろん、たくさんの生きるための言葉をいただきました。そしてそれらの言葉からほのかな思想が芽生えたことです。個人住宅の設計は、設計者とそこに住む人が対話を重ねることで成り立ちます。何らかの接点を見出し、お互いの住み方の思想のようなものが感じ合えれば、それはかたちになって表現されていくのです。
これから住まいづくりを考えている人に、このほのかな思想をお伝えし、土地や住まいを求める際出会うであろうパートナーとの対話のきっかけの言葉となっていただければ幸いです。次回からは次のようなアドバイスをお届けする予定です。
平成27年
09月・・・ 建て主から施主になる
10月・・・ 家づくりに適齢期はない、ほしいときが適齢期
11月・・・ 家づくりはなつかしい時間をつくること
12月・・・ 19坪の土地に独身女性が両親のために建てた家
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。