家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
はじめての家づくり トラブル事例から学ぶ
見えないものをつくるから勘違いが多い
「家を建てる」という人生最大のイベントは、殆の人にとっては、はじめての経験でわからないことも多いはずです。家は車や家電と違い完成品を手にとって確かめることが出来ません。また、手に入れるまで一年以上、或いはそれ以上に掛かるので、多くの時間を要することになります。したがって、依頼する業者や関係者とのコミュニケーションを上手くとらないと、トラブルを招きやすくなってしまいます。
家づくりは自分が理想とする住まいづくりだけでなく、建てた後に何らかの不具合が発生した時に、施工会社に面倒をみてもらわないといけません。本当のお付き合いが始まるのはむしろ竣工後かもしれません。そのためにも、工事中からスムーズな打ち合わせや良好な関係を築いていくことが重要となってきます。当然のような話ではありますが、これがうまく出来ていないがために、家づくりのトラブルが多くなってしまうのです。
トラブル例
主なトラブル例5つと、番外編1つを紹介します。
トラブル①
雑誌で目にした設計者を気に入り、契約書を交わさず設計の打ち合わせを進めました。しかし私たちの要望を聞いてもらえず、提案もなかったので取止めたいと伝えたところ、その設計者から50万円の請求があり驚きました。
○ここでのポイント
・初めの打合せの段階で、どこまで無償で、どこからが有償なのかを確認しておくことです。
・契約書はどの段階で交わし、設計費用はどのタイミングで、いくら支払っていくのかも確認しましょう。
トラブル②
施工会社の中に設計部があったため建物の予算はかなり正確に見積もりをしてくれると考え、依頼しました。ところが、予算を伝えているにも関わらず、予算の1.5倍もオーバーした見積もりを提示されました。その後、各仕様や設備のグレードを下げても予算が収まらないため、解約を申し入れたところ、これまで掛かった費用を請求されました。請求通りに払わなければならないでしょうか?
○ここでのポイント
・契約時の書面がどのような内容だったのかを確認し、仮に途中解約について書かれていれば、支払う必要があります。もし曖昧であれば、協議して解決することになります。いずれにしてもスムーズにはいかないことが予想されます。
・そうならない対策としては、上限予算や希望金額を書面等にまとめて伝えておくことです。書面(或いはメール等)として残すことも重要です。
・打ち合わせで追加した要望や、やり取りも書面として残しましょう。
・追加した要望等はどのくらい費用がアップするかを確かめたうえで、実際に見積もりに反映してもらうか判断してもいいでしょう。
・予算がオーバーしていないか、見積もりを提示される前に途中で大凡の総額を確認しておくことも一つの手です。
トラブル③
古家付きの土地を購入し、設計も完了したので施工業者ともスムーズに契約をしました。古家を解体し地盤調査をしてみると、地盤状況が悪く補強が必要と報告がありました。当初の見積もりでは何も言われていなかったので、地盤改良については想定していませんでした。地盤補強の必要性は頭では理解できるのですが、業者に対して「今更…」という不信感が残りました。
○ここでのポイント
・古家があったので地盤調査が出来なかったのでしょう。地盤調査は家づくりにおいて最も重要なところです。建主自身もこのあたりは十分に留意する必要があります。
・地盤改良費は可能であれば施工業者に見込み費用を予め確認しておくと良いでしょう。
・地盤改良費は、地盤状況や建てる建物の規模によって金額が変わります。液状化しやすいエリアもあるので、土地の購入前に確認する必要もあります。
トラブル④
工務店に依頼し、間取りも気に入り予算通りだったので工事契約をしました。図面は10枚程度ありました。現場工事が進む中で寝室を確認したところ、天井に勾配がついていて落ち着きません。事前に「天井は梁が見えて開放感がある」という説明は受けていましたが、図面に展開図がなかったので、イメージできていませんでした。
○ここでのポイント
・設計事務所等に依頼すれば、室内を表す「展開図」という図面を作成します。しかし工務店などは作成しないことも少なくありません。
・図面10枚はあるわけですから、着工前にわかりやすく説明を受けることです。その際、一人で説明を受けるのではなく、必ず夫婦で聞き、少しでも気になる事があれば確認することが大切です。
・工事が始まったら、各工程が完了した段階などで現場に行き、もしイメージと違っているのであれば予算を確認したうえで変更することも可能です。
・時には現場に差し入れなどを持参して、現場監督や職人さんらとコミュニケーションを取ることも大切です。見えないものをつくっていくわけですから、お互い気持ちを合わせて理想のイメージに近いものをつくっていくことです。
トラブル⑤
引き渡しの際、外構カーポートに給水栓がなく、寝室に設置依頼していたLANポートも設置されていませんでした。他にも建具の不具合もあったので、残工事として覚書を交わしました。1週間後には完了していると思い、引越し予定日もそのあたりに設定しました。
ところが、引越し日当日になっても残工事が完了しておらず、施工業者に確認したところ、「残工事完了日までは覚書に書いておりません」と言われ、とても嫌な気分になりました。
○ここでのポイント
・工事や補修が残っていたら、引き渡しを受けない。
・やむを得ず引き渡しを受ける必要があり、残工事や不具合等があれば、今後の対応スケジュールや完了日を予め確認し、書面に残して双方で保管しておくことです。
・新築、建替えにしろ、契約書には引渡日が記入されていますが、引越し等は少し余裕を持って日にちを決めると良いでしょう。
番外編
ここ2、3年で新築工事費の値上がりもあり、質の良い中古住宅を求める人が多くなってきました。そこで問題になるのが住宅の劣化や不具合の状況確認です。特に雨漏りの問題や、庭に植栽しようとしたらコンクリートのガラが出てきたということもあります。このようにならないためにどのような対策が必要でしょうか?
○ここでのポイント
・まずは購入前に建物を自分のできる範囲でチェックしてみることです。次に重要事項説明のなかで、過去に起きた不具合や修繕、リフォームなどの履歴を確認します。
・更に心配であれば、建物の状況調査(インスペクション)を専門の業者に依頼することも一つの方法です。専門業者はネット等でも探すことが可能です。
・中古住宅の売買契約では、売り主が契約不適合責任を負う可能性があり、その責任は3ヶ月以内とする特約を設けます。契約不適合責任の有無や期間は、必ず確認しなくてはなりません。
佐川からのアドバイス
これまでの経験でトラブルになりやすい共通する原因は大きく次の2つです。
① 言った、言わない問題
② 追加・変更工事問題
①「言った、言わない問題」について
建築に限らず、どんな仕事でも多く発生するトラブルです。これを回避するには打合せ内容を記録し、お互いに情報の共有に務めることです。施工業者に記録をお願いし、受け取ったらお互いに確認をして、サインをしておくことです。
②「追加・変更工事問題」について
建築工事は完成まで長く時間がかかるので、着工後などに「たまたま通りがかったショールームで見つけた設備を取り付けたい」など気分が変わることもあるでしょう。
そこで注意したいのが、計画時に指定したものが、既に発注済みなのか、或いはまだ変更が可能なのか、そしてその差額はどのくらいなのかを現場監督に確認しておくことです。その際も必ず書面での取り交わしをしておくことです。
サービスと思いこみ、現場にいる職人さんに計画外のことをお願いする施主も多くいますが、後々請求されることも少なくありません。変更や追加工事は設計者、現場監督ら責任者とすることを意識しましょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。