家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
薪ストーブを導入するチェックポイント
火のある暮らしに憧れ、しかし大変さも…
コロナ禍によって都市周辺はもちろん、地方に移住する人の割合がこの1年で高い傾向にあります。中古住宅を購入してリフォームする人、或いは新築をする人もいます。そこで頻繁に話題になるのが薪ストーブの導入についてです。火のある暮らしで「手触り感のある地方(田舎)暮らしを楽しみたい」という希望があるのでしょう。揺れる炎に心が癒やされ、そこに家族が集まる楽しそうな一家団欒をイメージします。しかし、それなりに大変さもあります。実際に設置するにはどの様なポイントがあるのかをチェックしてみましょう。
環境に優しい
薪ストーブは環境によくないと考える人もいますが、それは大きな間違いです。薪は木を伐採してつくりますが、その木は空気中の二酸化炭素を吸収して育ちます。吸収した二酸化炭素は、燃焼した時に再び空気中に排出されますが、さらにその二酸化炭素を吸収して木が育つという循環サイクルが出来ていて、結果的に地球上の二酸化炭素の量は変わることはないのです。これが環境に優しいカーボンニュートラル※です。
※日本語では炭素中立と言われ、何かを生産し、一連の人為的活動を行った際に排出される二酸化炭素の量と吸収する二酸化炭素の量が同じ量という概念。
住宅密集地でも可能か?
法的には問題有りませんが、近隣の理解が必要です。おそらく反対する人は洗濯物にススが付着することや、火災のリスクが高まるということが主な理由でしょう。しかし、近年の薪ストーブは触媒方式の薪ストーブのように排煙量が少ない機種もありますので設置することは可能です。
本当に暖まるのか?
薪ストーブは輻射と対流によって部屋を暖める、とても心地よい暖房器具です。輻射とは薪を燃やした時に発生した熱エネルギーが赤外線となって放出されることです。また、薪ストーブの周りで暖まった空気が上昇して冷たい空気が押し流され、空気が対流することで家全体を暖めるのです。この輻射と対流の相乗効果によって心地よい暖かさを感じることができるのです。エアコンなどは暖かい空気をファンで強制的に対流させるだけなので、家全体を暖めることはできません。
設置基準で注意することは?
建物躯体や屋根からの離れの寸法等があります。これらは実際にどの位置に設置したいのかを決め、あとは専門会社と相談することです。特に積雪が多い地域は、雪が煙突に溜まらないように工夫する必要があります。なかには軒先近くに煙突があって、棟から落ちてくる雪によって煙突が折れてしまったという事例もあります。できれば棟近くに設置すると良いでしょう。
さらに配慮することは、内装制限の適応を受けることです。例えばリビングに薪ストーブを設置したとすれば、周囲を準不燃材料で仕上げなくてはいけません。内装制限を受ける範囲もあるので、確認すると良いでしょう。
夏のことも考えて
シーズンが終わったら、本体の点検や煙突掃除といったフルメンテナンスが必要です。煙突掃除を自分で行うのはなかなか困難なので、チェックも含めて専門の業者にお願いすると良いでしょう。薪ストーブを使用している時期は良いのですが、シーズンオフとなる夏のインテリアとしてどの様に考えておくかも重要です。近年の薪ストーブのデザインは様々なものがあります。ぜひ夏の薪ストーブをどう活かすかも考えて、機種の選定と照明計画なども併せて検討しておくと良いでしょう。
薪はどうする?
かつて薪は広葉樹と言われていましたが、針葉樹でも問題はありません。質量あたりの熱量は同じです。針葉樹は火がつきやすく、温度が上がりやすいなどのメリットがあります。煙が出にくいのは広葉樹ですが、乾燥していることがとても重要です。自分で用意できるのであれば問題ありませんが、不完全燃焼を起こさないためには、ストーブを購入したお店で薪を調達できるか問い合わせてみることです。
アドバイスとまとめ
北欧は日照時間が少なく、人はいかに家の中で快適に過ごすかを求めてきました。特にデンマークの人々は「ヒュッゲ」という言葉をとても大切にしています。ほっとくつろげる心地よい時間、またはそのような時間をつくり出すことによって、自然と生まれる幸福感や充実感、そして暮らしを楽しむといった意味が込められている言葉です。デンマークの都市部において薪ストーブの設置率は50%を超えています。ある意味薪ストーブはヒュッゲの役割を少し補っているかのようです。
日本人の生活に求められているものは、ヒュッゲのようなものの考え方かもしれません。単に薪ストーブを設置するかしないかではなく、薪ストーブには暮らしの豊かさを教えてくれる何かが隠されているかもしれませんね。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。