家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
用なき所をつくると住まいは豊かになる
なぜ用なき所なのか
戦後日本の住まいづくりは質より量が求められ、年間100万戸以上の住まいをつくってきました。しかしながら、2000年以降は住宅の品質確保の促進等に関する法律も施行され、質の向上が求められています。
近年は着工数が減少する中、住まいに対する関心が高く、積極的にこだわりをもって住まいづくりに参加する建主が増えているということが特徴的です。そこで考えてほしいことは、機能的なプランニングは勿論重要なポイントですが、ぜひ「用なき所」も併せて考慮してほしいということです。なぜなら、用なき所をつくると住まいが豊かになるからです。
「間」の文化を考えてみる
日本の文化には「間」という言葉があります。「間をとる」といえば空間を表し、「間に合う」といえば、時間を意味します。日本の「間」の言葉の中には、空間と時間のどちらも表すものとして用いられます。つまり四次元的な捉え方で空間的、時間的なゆとりや余白として大切にする文化を持ってきたのです。この考え方を活かして、例えば用途がはっきりとしているスペースの間(あいだ)に小さな「用なき所」を設けてみます。するとスペース間の境界はやや曖昧となり、ひと呼吸する場、つまり「間(余白)」が生まれ、視線のズレや広がり感をつくり出してくれるのです。
昔ながらの「間」を現代に活かす
日本家屋の昔ながらの家で「間」を感じる所はどこかといえば、土間、縁側、坪庭、床の間といったところでしょうか。これらのスペースは現代の住まいにも取り入れることは十分可能です。現代の生活スタイルに応用しても素敵な空間が得られます。
例えば、
・デッキは土間や縁側に似ていて室内の延長として、または庭の一部ともみなせて、暮らしをアクティブで開放的なものにしてくれます。
・坪庭は中庭のようにして、プランニングに取り入れ、室内にいながらにして移ろいゆく季節を感じることができます。さらに日当たりの悪い敷地であれば、敷地の中央に中庭を設けて、家族が気ままに室内と室外を出入りできる都市型プランも考えられます。まさに敷地の中央に「間」をつくることです。
・床の間は現代の住まいでいえばニッチでしょうか。ニッチとは元々は英語で直訳すると隙間やくぼみを意味します。建築では小物や絵などの飾り棚として利用するために、壁の一部をへこませた部分のことです。玄関や廊下などに視線を引きつけるアイキャッチがあると場に奥行が生まれ、一瞬の「間」をつくることができます。
・日本家屋で天井を貼らずに太い梁など小屋組みをみせてダイナミックさを感じさせる家屋があります。天井がとても高くなるので吹抜けのようになります。吹抜けは2階に床を設けないので、とても開放感があります。さらに1階と2階で高さが異なることにより、会話がより多くなるような気もします。
吹抜けを設けると、その分部屋数が取れなくなることもあります。しかし、北側斜線など建築条件の厳しい地域であれば、逆手に取って空間に余白をつくるという考え方もあります。
ミニ解説
徒然草(吉田兼好)の55段に「造作は用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ」という一文があります。家にはムダと思える所や遊びの空間を造ることで、日々の生活を楽しむ喜びや余裕が生まれるということです。1000年前の言葉ですが、今にも伝わる言葉ですね。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。