家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
注文住宅はここをチェックすべし①
注文住宅だからこそトラブルになることも
この5年間、注文住宅で家を建てる人が増えています。最大の理由は建売住宅と違って自分の希望通りの間取りや材料、更にはこだわりの設備機器等を採り入れて自分色の家をつくりあげることができるからです。
ただ、注文住宅はひとつひとつ、つくりあげていきますので、つくる途中に自分のイメージと違っていたり、変更に伴ってコストが上がったりと思わぬトラブルになることもあります。注文住宅をつくるにあたっての心構えと注意点を確認しておきましょう。
チェックすべき項目
■価格について
注文住宅は一般に価格が高いというイメージがありますが、実際は、高くなってしまう原因を施主自身がつくっている場合もあります。
一般的に家を建てようとする皆さんは、必ずショールームに行きます。それ自体は決して悪いことではないと思います。
しかし、間取りも決まっていない段階から「取り敢えずどんなものがあるのかな?」とショールームに行くと、そこで性能の良いものやデザイン性の優れたものを見て、やはり良いものを選択してしまうのです。
良いものは当然価格が高いです。まだ建物全体の予算がまとまっていない段階なので、ついこれ位は良いだろうという感覚で選んでしまうのです。
私は施主に「始めにショールームには行かないで下さい。」と言います。それは始めに設計事務所で標準的なものを選び、全体予算を確認した上であれば、グレードアップをしたい材料や設備機器により、どれだけ価格がアップしたのかを自分で確認することが出来るからです。
また、ショールーム側も戦略をもって売りたい商品を取り揃えているはずです。万一どうしても気に入って自分の家に採り入れたいのであれば、そこの部分のコストアップは認めて、資金繰りをするしかありません。
ただ、そういうことを何箇所もすると10万20万のアップというより、他との取り合わせも相まって100万200万の単位で見積もりが上がっていくこともあるので、注意が必要です。
■間取りについて
施主の中には自分たちの希望通りの家ができるということで、PCのソフトを使い平面図を作成される人がいます。もちろん参考にはなりますので何も問題はありません。
しかし、折角の注文住宅なのですから、希望条件だけを伝え、設計者が自分たち家族に対して、どのような住まいを提案してくれるのかを待つ楽しみもあって良いでしょう。
こんなにも私たち家族のことを深く考えてくれたのかと思える間取りであるか、或いは通り一辺倒な間取りだったのかによって、その設計者の姿勢がわかってきます。万が一にも浅い考え方であれば、そこは思い切って断っても良いかも知れません。
とにかく、設計者とは約一年間お付き合いしますので、そのあたりの相性を見極める必要もあります。そして、このあたりから信頼関係が生まれてくるのです。
私は言葉でいうと注文住宅は「伝わる言葉」を使わなければならないと考えています。「伝える言葉」では施主の心の中に届かないからです。もし設計者が伝える言葉ばかりで説明するようであれば、その人は住まいを商品と捉えているからです。つまり注文住宅は建売住宅とは違うということです。
■期間について
注文住宅をつくるにはそれなりの時間が掛かります。例えば建築家にお願いするのであれば、基本計画の打ち合わせに2~3ヶ月、実施設計期間と見積もり、施工会社決定などに2ヶ月、工事期間が4.5~5ヶ月と、少なくとも約10ヶ月は十分掛かります。
ただ、一生に一回の大きな買い物です。じっくりと時間を掛け、自分自身も楽しみながらも納得してひとつひとつ確認することで、自分サイズの家になっていくのです。自分も参加したからこそ愛着ある住まいとなり、メンテナンスも心掛けるようになっていくのです。そして最終的に家は建てて終わりではなく育てていかなければなりません。
ミニ解説
■注文住宅と建売住宅
注文住宅とは注文してから建築する住宅のことで、施主と建築家(設計者)そして施工会社が三位一体となって建てていきます。一方、建売住宅は間取りや仕様が決まっていて、既に建築済みの住宅です。
■建築条件付注文住宅
土地に条件が付きます。条件とは土地の売主が指定する建築業者と一定期間内に建物を建築することを条件に土地を売るということです。したがって指定された建築業者と間取りの打ち合わせをすることになります。自由度の低い注文住宅になります。
佐川旭のメッセージ
注文住宅と言えば、私は建築家に依頼して建物を建てることが一般的だと考えます。それはハウスメーカー各社がこれまで企画型の標準的な住まいを発売してきたからです。
しかし、近年はハウスメーカーも注文住宅といって様々なバリエーションの住宅を提案しています。なかにはデザインの自由度が低かったり、オプションを付けて高額になったりと設計費用も施工方法も千差万別です。
大切なことは単に注文住宅とか自由設計とかの言葉に惑わされることなく、自分の思い描く家を本気でつくってくれるのか、その判断を見誤らないことです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。