家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
住宅コストを解剖 工事価格の目安を知る
住み心地はもちろん、コストも納得
「満足した住まいができた」という施主の言葉の裏には住み心地はもちろん、予算内で納まったという納得感もあるということでしょう。
安心安全を含めて価値ある住まいをできるだけ安くつくりたいというのは、家を建てる人にとって共通の願いでもあります。しかしながら、一般的には予算オーバーする人が多く見受けられます。それは、建物は家族の考え方によって一軒一軒全く違い、世界にひとつだけの言わば受注生産のモノづくりをするからです。したがってユニットバス、キッチンといったひとつの製品であれば容易にコストの比較はできるのですが、そこには施工費や廃材処理、運搬費など様々なコストが上積みされてきます。そのため、施主は仮に予算がオーバーしても、どこを落としていいのかもわからなくなります。
そこで、最近私が設計した木造2階建て住宅を参考に、まずは住宅コストの「今」をチェックし、コストに対する目安を知ることから始めてみましょう。
参考実例
建物の工事金額の算出については、道路の幅や敷地の状況によって運搬の費用が異なり、建物の形、仕様等によっても違うため、一概に坪単価いくらとは算出できないので、一つの目安として参考にして下さい。
以上、約15業種の職人が工事現場に入ることになります。したがって、この15業種を現場監督がしっかり繋げていかないと無駄なお金がかかり仕上がりも悪くなっていくのです。
工事金額で大きな割合を占めるトップ5は?
工事項目の中でずっと変わらないのが、木工事が全体の約30~35%、設備(衛生・電気)工事が約20%で、近年水まわりの機器がグレードアップされ、良い機器を入れると約25%になります。
トップ5は
の6項目です。これらの金額の内容を更に詳しくチェックしてみましょう。
①木工事について詳しく
一般に土台、柱、梁などの構造材は4万円/坪で計算し、構造材を補う比較的断面の小さい部材(間柱、垂木、筋交、窓台、根太など)は羽柄材(はがらざい)と言って、これらは 1万3,000円/坪位です。また近年は、柱や梁などの部材は工場で予め加工してきますので、これがプレカット費で1万円/坪前後です。最後に大工手間ですが、これは7万円/坪で見積もっています。ここでは延床面積が33坪なので、231万円を計上しています。大工手間は職人の経験や、図面から判断した施工難易度によっても多少変動します。
②屋根・板金・外壁工事について詳しく
基礎・構造躯体(木工事)と併せて、この工事は建物の耐久性にとても大きな影響を与えるので、材料を変更するなどコストダウンが容易に図れない項目です。
この工事ではイニシャルコストは多少掛かっても、ランニングコスト、つまりメンテナンス費用の軽減を考えましょう。特に外壁は12~15年に1回のメンテナンス費用で約100万~150万掛かります。
ここでの屋根は初期費用が高いものの、耐用年数が高いガルバリウム鋼板(材工単価6,500円/㎡)、外壁はメンテナンスが比較的容易な窯業(ようぎょう)系のサイディング(材工単価6,500円/㎡)を採用しています。
③サッシ・ガラス工事について詳しく
近年省エネ住宅が求められ、その最も影響を与える箇所が窓ということで、ペアガラスやLow-Eガラスが採用され、以前に比べるとコストが上がっています。
窓の大きさや開閉方法にもよりますが、一箇所の材工単価で2万~7万円はします。大きい掃出し窓ですと、10万~15万円です。窓の数や大きさをチェックし、開閉方法を引違いにするなどしてコストダウンを図ることも出来ます。
④衛生機器設備工事について詳しく
衛生機器は毎日使うもので、最も豊かさを実感できるものでもあります。したがってつい良いものを入れてしまうのです。当たり前ですが、良いものは高価格帯になります。設計では1階のトイレはタンクレスにし、2階はタンク有りにしました。2階のタンク有りは災害を考慮しました(タンクに水を貯めておくと便利)。また、浴室も近年のユニットバスは高いので、ハーフユニットにし、上部はタイルを貼り、オリジナリティーを演出しつつコストも抑えました。ここでは常に衛生機器を「松」・「竹」・「梅」の3段階に分けて考え、仮に予算が多少オーバーした際はこの工事項目で調整すると良いでしょう。
⑤基礎工事について詳しく
基礎工事は主に鉄筋、型枠、コンクリートの3つの費用と土工事です。中でもコンクリートの単価は約1万8,000円/㎡をひとつの標準としていますが、地域によって多少違いますのでチェックしてみましょう。
基礎工事は建物を支えるとても重要な工事です。コストも大切ですが、地盤のこと、鉄筋の配筋の仕方などを含めて建物の耐震性について設計者に訊いてみることです。
⑥内装工事について詳しく
今回設計した住まいは150万でしたが、この工事はとても金額に差が出やすいところです。したがって予算オーバーの際はこの内装工事が一番先にチェックされます。最近は特に自然素材を採用される施主が多くなり、コストがアップする原因にもなっています。このあたりは空間の質や住み心地にも影響を与えますので、じっくり検討することです。
各仕上げ材の単価をあげておきます。
工事価格以外の費用もチェック
建築物をつくりあげるには実際工事に掛かる費用と、それらを管理する費用も必要です。いわゆる現場経費と会社経費です。
一般にハウスメーカーは間接経費がとても高く、約20%~30%と言われています。その点地域の工務店は規模にもよりますが、約10~15%です。
このあたりは総合的に判断しないと一概に高い安いとは言えませんが、建主側が何を一番大切にして、住まいづくりを進めるかによって変わってきます。ちなみに建築家に依頼した場合、設計・監理費用は工事金額の10~12%を目安にして下さい。建主側に立ってアドバイスをしてくれます。
ミニ解説
工事内訳書
工事見積り書には工事項目別に金額を表示する「工事内訳書」と、さらに具体的な部材や設備の単価、数量が書き込まれた「内訳明細書」から出来ています。
材工価格
材料費と工賃を合わせた合計価格のこと。
副資材
設計図に記載がなくとも必要な資材が多々あり、それを副資材といい、見積り書には副資材費として計上されます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。