家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
心地よい暮らしは収納計画で決まる
収納計画の動線も考えてみる
最近の住まいづくりの特徴はリビング・ダイニングを広く確保し、家事コーナーや食品庫などのスペースを重視する傾向にあります。働く女性が多くなり、毎日片づけはできないので、出来るだけ「家事ラク」を考えているからでしょう。
それほど生活が豊かでない時は物が増えませんが、生活が豊かになる程、物は増えていくようです。
例えば季節ごとの衣類一つとっても以前と比べると格段に増えているのではないでしょうか。さらに私達はつい収納スペースに余裕があると新しい物を購入してしまうものです。
心地よい暮らしをつくるためには光や風、そして温熱環境等ですが、収納計画も大切なポイントです。なぜなら、使うところにきちんと収納されていれば探す時間もなく、すっきりと心の安定につながり、心理的にもイライラせずに済むからです。
間取りを考える際、生活動線と併せて収納も一緒に考えてみると生活は一段と心地よい暮らしになっていくのです。
新築プランの前に今あるものを整理する
仮に現在、新築の住宅やリフォームなどを考えているのであれば、まずは今あるものの整理をおすすめします。持っている物を出して並べることで、忘れていたものや、捨てて良いものなど気づくことがあるからです。
なかなか捨てられないものは何といっても衣類です。気に入っているがもう少し痩せれば着ることができる、その服に想い出がある、まだきれいなのでもったいない等の理由からです。
また食器類も同様です。日本人は様々な料理を作るのでたくさんの器を持っているのです。特に作家ものや大皿などはつい捨てられず、ずっと食器棚のスペースを占めることになります。このあたりも整理が必要かもしれません。
収納方法5つを考えてみる
収納方法はごく当たり前で必要な時にすぐ取り出せることが基本ですが、細かいアイデアやテクニックよりは、むしろそこに住む人の生き方が表現されるものなのです。それらを踏まえて次の5つを考えてみます。
① コミュニケーションをつくり出す収納スペース
一般に住まいは各部屋に収納スペースを作りますが、そこで完結してしまうと、仮に子供は、朝そこからまっすぐ学校に行ってしまいます。もし玄関にコートや帽子などを置いておけば、丁度お父さんと一緒になりコートを着ながら一言二言話せるかもしれません。そんなコミュニケーションをつくり出せる収納方法があっても良いのではないでしょうか。
② 見せる収納と隠す収納をはっきり区別する
衣類やタオルなどを重ねて入れると、いつの間にか下の方に何が入っているかわからなくなります。用途に応じて深さのある収納引き出しを作り、畳んで折山を上にして立てて収納すると、何が入っているかわかりやすく、取出しやすいのです。
また、リビングにつくる収納などのガラスも透明にするのか、それとも見えなくするのか。収納は常に見せる収納のスタイルにするのか、それとも隠す収納にするのか、を意識することです。見えるか、隠すかによって部屋の雰囲気はとても変わるものです。
③ 7~8割収納を心がけてみる
クローゼットなどはついハンガーの本数を増やしてぎっしり詰めてしまいがちです。あらかじめハンガーの本数を7~8割にしておき、仮にそれ以上増えたら着ない服は処分していく勇気をもつことです。そうすることで生活スタイルや生き方が見えてくるのです。
④ 使うものを使う場所に
当たり前の話ですが、意外と新築後に気づくこともあるのです。例えば洗濯物をベランダで干す際、サンダルや洗濯ばさみは近くに置きたいものです。小さな収納BOXがあると便利です。また、印鑑や自転車の鍵は玄関の靴入れの中に引き出しがあると便利なのです。生活のちょっとした工夫が家事ラクにもつながりイライラしなくてすみます。
⑤ 高さ、重さ、使う頻度の基本はしっかりと
高さのあるクローゼットの使い方は、真ん中あたりにはよく使うもの、下段は重いもの、上段は使う頻度が低く軽いものを一般的にいれます。その際、クローゼットの中はパイプや棚など基本となるものはしっかりつくり、あとの細かい細工はやめてなるべくフレキシブルにしておくことです。市販のカラーボックスや、キャスター付きの網棚などを利用するとよいのです。収納物は年齢で多少なりとも変化します。その際クローゼットの中も、ある程度自由度を持たせておいた方が融通が利き、自分で工夫する力も掻き立てられるのです。
佐川旭からのメッセージ
収納についての1ポイントアドバイス ー 収納スペースの目安は?
一般に戸建て住宅の収納スペースは家全体総容量の12~15%を目安にします。
平面図ができた段階でおおよそ何%になっているか確かめて下さい。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。