家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
平家を建てる
平家建てが人気
コロナ禍によって首都圏を離れ、地方に平家を建てる人が多いようです。平家の魅力は何と言っても縦移動がないので、動線がシンプルで生活しやすいところです。また、上下階の水廻りの位置も気にすることがないので自由なプランニングができます。さらに、将来万一介護が必要になっても、スムーズに対応できることも平家の良さかもしれません。
日本家屋は、もともと平家が主流でしたが大正時代くらいから2階建てがつくられるようになりました。当時は、富裕層が多く2階建てを希望したようです。それは、応接間やプライバシーを考慮した個室など西洋文化の考え方や憧れもあったのでしょう。現代の住まいは2階建てが当たり前となりました。しかし、あらためて平家の魅力を求めて建てる人が増えてきたのはプライバシーの配慮はもちろん、家族とのゆるやかなコミュニケーションが気持ち良くとれるからかもしれません。そのあたりのメリット・デメリットをしっかりチェックして失敗しないようにしましょう。
平家建てのメリット
平家は、天井の高さを自由に設定出来たり、あるいはロフトを設けたりと空間的にも魅力的でその他にも様々ありますが主に次の5項目にまとめてみました。
①2階がないため軽いので、耐力壁などが少なく済み、間取りの制約もあまりないフレキシブルな空間がつくりやすい。
②風を受ける壁が少ないので、台風や地震の横揺れに対しても強く耐久性がある。
③バリアフリーにしやすい。
④階段が無いので上下階の家事移動が少なくて済む。
⑤将来リフォームも比較的容易にできる。
以上、5項目をあげました。新築時は誰しも自分が高齢になった姿はイメージしにくいものですが、住まいは建てた時が最高ではなく、むしろ高齢になった時までずっと住みやすい環境を維持したいものです。そう考えると住まいは安心・安全でなくてはなりません。統合的に言うならば、家事が楽、バリアフリー、台風、地震に強い家は何よりも安心安全な家となるはずです。
さらに、一般的に住まいの天井の高さは2.4mが目安です。しかしながら平家建てであれば屋根の形まで天井を上げることができ、高い所で約3.5m位まで天井を高くすることができます。大きな開放感を得られることも平家建ての魅力でもあります。
平家建てのデメリット
平家にはたくさんの魅力もありますが、デメリットや注意点もあります。主に次の5項目です。
①2階建てに比べて敷地面積が広く必要になる。
②通風や採光計画を十分検討しないと風通しが悪く、かつ薄暗いスペースが出来てしまう。
③間取りを工夫しないとプライベートが保ちにくい。
④基礎や屋根面積が大きくなるのでコストが高くなる。
⑤万一、水害が発生した場合に2階への避難ができない。
この5項目のなかで特に留意するポイントは、広い敷地が必要ということとコストが高くなるということです。万一水害が発生した場合は、安全な所に避難すれば良いという話です。また、通風、採光、プライベートについてはプランニングで十分検討を重ねることである程度解決できます。難しいのはコストの問題です。土地を購入してさらに建物を建てるとなるとそれなりの資金計画を十分に立てておく必要があります。このあたりは個人差もあり一概には言えませんが、もし平家建てを希望しているのであれば一番始めに土地のコストを大雑把でも良いので把握して計画を進めると良いでしょう。
お役立ち情報+ひとこと
◦ロフトについて
平家建てを建てた場合には、一部に高い天井をつくることが出来ますが、その際天井裏スペースが大きくとれるのでもったいないスペースが生まれることになります。
そのもったいないスペースを活かした空間でロフトをつくることが出来ます。ロフトとは屋根裏(小屋裏)の空間を利用したスペースを指し、建築基準法上は物置きとして定義されている空間です。天井高は1.4mまで、広さは下の階の床面積の2分の1未満などの条件があり、これを超えると法律上は「階」となるので床面積に算入されます。そのため、当然固定資産税も課税されることになります。以前はロフトを設けても収納階段での上り下りで利用しずらかったのですが、近年は多くの自治体で固定階段での上り下りが認められるようになりました。もし検討するのであれば計画階段で自治体の建築確認指導課に確認するとよいでしょう。
◦天窓(トップライト)について
平家はどうしても建築面積が広くなる分、必ず暗いあるいは薄暗いスペースができます。その際、どうしてもこのスペースは明るくしたいという時は天窓を設けると良いでしょう。天窓は開閉することもでき、換気も可能です。また、夏の暑い時には熱も室内に侵入してきます。その対策も十分に検討しておくことです。
◦屋根の形について
平家の屋根は片流れが多い様に感じます。すっきりとシャープなデザインにまとめたいのでしょう。しかしながら、大雨の時などは一気に雨水桝に溜まりますので、そのあたりも十分に配慮することです。日本は雨が多く降る国にも関わらず、雨のことを考えないデザインが多すぎます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。