

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
産業廃棄物処理場建築計画の不告知
【Q】
私は、宅建業者である売主Aから、別荘地にある本件土地を購入しました。本件土地の購入に際しては、売主Aの担当者から「この別荘地は、緑が豊かで、空気のきれいな、大変静かな環境が抜群の別荘地である」との説明を受け、購入を決意しました。
しかし、物件購入後、本件土地の隣接地域(1.7㎞~10.3㎞)に産業廃棄物最終処理場と産業中間処理場の建築計画が存在していたのに、売主Aの担当者は勧誘時に同計画の存在を説明しなかったことが発覚しました。
売主Aは、同計画地は遠方にあり、未だ計画段階にすぎないため、本件土地の周辺環境に影響のあるものではないと主張しています。しかし、同計画が実現すれば、空気のきれいな抜群の環境との勧誘時の説明とは全くなる状況になる可能性は否定できません。
私は本件土地の売買契約を取り消すことができるでしょうか。
【回答】
本件別荘地の売買契約に際し、周辺環境がいかなるものであるかは物件購入の判断に影響を与える重要事項であり、産業廃棄物最終処理場等計画の存在は、消費者契約法4条2項の不利益事実に該当すると考えられます。
本件土地売買契約において、売主Aの担当者が故意または重大な過失により同計画の存在を告げなかった場合には、同法4条2項の不利益事実の不告知に該当し、あなたは、同法4条2項に基づき、売買契約を取り消すことができると考えられます。
1 不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)
本件土地は、環境の優れた別荘地として取引されており、本件土地の周辺環境がいかなる状況かは、購入者は重要な関心を有しており、本件売買契約における重要事項に該当します。
消費者契約法は、事業者が消費者を勧誘するに際し、消費者に対して、①重要事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ、②当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、消費者が、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって契約を締結したときは、消費者は契約を取り消すことができると規定しています(消費者契約法4条2項)。
本件売買契約では、売主Aの担当者により「緑が豊かで、空気のきれいな、大変静かな環境が抜群の別荘地」との勧誘が行われており、重要事項について①「消費者の利益となる旨を告げた」ことに該当すると考えられます。
一方、売主Aの担当者は、本件土地の隣接地域(1.7㎞~10.3㎞)に産業廃棄物最終処理場と産業中間処理場の建築計画が存在したことを、買主に告知していません。同施設予定地が本件土地から一定の距離があること、また、同計画が未だ計画段階にすぎないことから、同事実の不告知が、同法4条2項の②不利益事実の不告知に該当するのかについて当事者間の見解が分かれています。
2 裁判例
裁判例(東京地裁平成20年10月15日判決)では、本件設例の同様の事案のもと、以下の様に判断しました。
「本件計画が実現し、産業廃棄物処理場等が建設されることになれば、本件土地の周辺環境を阻害する要因となりうることはたやすく否定することができないから、被告が同事実を告げなかったことは同条所定の不利益事実の不告知に該当する。」「同計画施設が本件土地から離れており、本件土地の住環境に悪影響を及ぼすものではないとの被告の主張は、位置関係に照らし、首肯できない。」「さらに、同計画について県知事の許可が下りていないこと、周辺住民等が反対の意向を示していること等に鑑み、同計画の実現性が客観的に具体化・現実化していたわけではなかったとしても、買主に対する説明義務を負う不利益事実に当たるものと解するのが相当である。」また、「被告は、近隣物件を扱うことが多く、関係者の大多数が本件計画の存在を知っていたものと認められるから、被告は、故意に本件計画を告げなかったものと推認するのが相当である」と判断し、同法4条2項に基づき売買契約の取り消しを認める判断をしました。
また、同裁判では、被告が故意に同計画の存在を告げなかったことが、原告に対する不法行為を構成するとして、弁護士費用の賠償を命ずる判決を下しました。
3 まとめ
上記裁判例では、別荘地であり、周辺環境が良好であることが契約締結における重要な要素となっていたため、産業廃棄物処理施設の計画地が本件土地と一定の距離があり、かつ、未だ計画段階であったとしても、買主に告知すべき重要事実であることが示されました。また、売主業者が故意に不利益事実を告知しなかったことが、原告との関係で不法行為に該当するとして損害賠償まで命じており、厳しい判断をしています。売買契約の決断に影響を及ぼす可能性がある事項については、不利益と考えられる事実ほど、入念に調査し、買主に事前に説明することが、トラブル防止のために必要となります。
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