不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
都市計画道路を含む土地の売買
【Q】
私は両親から相続した土地の売却を計画していたところ、媒介業者から「本件土地の一部には都市計画道路が計画決定されており、売却に影響があるかもしれない」との説明がありました。
(1) 本件土地の一部に都市計画道路が含まれると、土地利用にどのような影響があるのでしょうか?
(2) 都市計画道路が含まれる本件土地を売却する場合、どのような点に注意する必要があるでしょうか。
【回答】
(1) 都市計画道路の都市計画決定がされると、計画区域内での建築行為に一定の制限が課せられます。また、都市計画道路事業認可の段階になると、計画区域内での建築行為は原則許可されず、用地取得が行われ、建築物の移転・除去を求められることが想定されます。
(2) 本件土地売却の時点において、本件土地へ課される建築制限を調査確認の上、買主の建築計画の実現可能性について詳細に説明する必要があります。また、都市計画道路事業の具体的実施時期や事業認可後の流れについても可能な限りに調査・説明する必要があるでしょう。
【解説】
1 都市計画道路
(1) 都市計画法に基づき計画決定された道路を都市計画道路といい、戦後、高度経済成長期に多くの都市計画道路が計画決定されました。
都市計画道路は、①都市計画決定の後、②都市計画事業の認可を受け、③用地取得、④工事実施、という過程を経て完成に至ります。
しかし、都市計画道路の中には、高度経済成長期に①都市計画決定された後、社会経済情勢の変化を受け、何十年もの間、道路計画が停止し、②都市計画事業認可に至っていないものも少なくありません。
(2) 都市計画道路事業では、①都市計画決定がされると、当該計画区域内での建築物の建築行為には、原則、都道府県知事等の許可が必要となります。都市計画法54条では、都道府県知事等の許可基準として、「イ.階数が二階以下で、かつ、地下を有しないこと、ロ.主要構造部分が木造・鉄骨造・コンクリートブロック造等」であり「容易に移転・除去することができるもの」であることが要件とされています。
一方、②都市計画事業認可の段階に進むと、計画道路工事の実施に向け、当該計画区域内での建築行為は原則許可されないとされています。
(3) このように一度、①都市計画決定がされると、計画区域内での建築行為に厳しい制限が課され、また、②都市計画事業認可の段階に進むと、建築物の建築は原則許可されず、土地取得により、既存の建築物の移転や撤去が余儀なくされるため、当該区域の土地所有者・借地権者等は甚大な影響を受けることになります。それにもかかわらず、①都市計画決定の後、事業の実施時期が未定のまま、何十年もの間、計画が停止しているケースも少なくないことが社会的に問題視されてきました。そのため、近年では、①都市計画決定の見直しによる計画変更や、また、一定の地域では①都市計画決定による建築制限の内容を緩和し、一定の要件のもと、3階建ての建物の建築も可能となっています。
2 土地売却への影響
前記1の通り、①都市計画決定の段階では、計画区域内での建築行為に一定の制限が課されますが、計画区域を含む土地の売買自体に制限はありません。実際に、①都市計画決定後、計画が停止している区域では、計画区域を含む土地の売買が行われています。ただし、計画区域内での建築行為には一定の制限が課され、将来的に②事業認可がされれば、用地取得が行われる可能性があるため、市場価格より安価な価格で取引されることが多いようです。
3 売却の際に注意すべき点
(1) 都市計画道路を含む土地の売買に際しては、計画区域内での建築行為への制限内容、及び、将来的に②都市計画事業認可により、用地取得が行われ、建築物の移転・撤去を求められる可能性があることを、重要事項として説明する必要があります。
(2) 仮に、土地の買主が、土地購入後、一定規模の建物の建築計画を予定し、これを明示している場合には、媒介業者は当該計画が実行可能か否かについて調査説明する義務があると考えられます。仮に、媒介業者がこの調査説明を怠った場合には、重要事項の説明義務違反の問題となりえます。
(3) また、売主であるあなたが、買主の建築計画を認識し、これを前提として売却したにも関わらず、建築制限によって、買主の計画が実現不可能であることが後に発覚した場合には、売主の契約不適合責任の問題となる可能性があります。
(4) したがって、①都市計画決定がされた計画区域を含む土地を売却する際には、当該区域に課される建築制限の内容、また、具体的な建築計画との整合性について詳細に調査し、買主に説明する必要があります。また、具体的な計画道路事業実施の時期についても、可能な限り調査説明をする必要があるでしょう。
4 まとめ
計画道路に限らず、公園やトンネル等、都市計画に基づく施設の事業計画では、計画決定から実際に事業が実施されるまでに、何十年もの期間がかかり、その間に計画が幾度も変更されることも少なくありません。都市計画予定地が含まれる所有地を売却する場合には、最新の計画決定を確認し、買主に対しては、当該計画によって課される制限等を具体的に調査説明する必要があります。