安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。
代理制度
別荘を購入する予定ですが、売買契約当日は、別荘の所有者自身は不在であり、別荘の管理等の受託会社が代理人として売買契約を行う予定と聞いています。このような契約は可能でしょうか。
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この売買契約は、別荘の管理等の受託会社が別荘の所有者の代理人となって行う「代理人による不動産売買契約」です。売主が遠隔地にいる場合やマンションの販売代理業者が分譲販売等を行う場合などに見られます。
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代理人による売買契約は(1)本人が代理人に代理権限を授与し、(2)代理人が本人に法律効果を帰属させる趣旨で意思表示を行い、(3)その契約が代理人の代理権限の範囲内で行われた場合に有効となります。
(1)
代理権授与
売主の別荘所有者が受託会社に対し売却の代理権を付与する事が必要です。通常、代理権の付与は、「委任状」の交付、「委任契約」の締結により行われますが、別荘管理等の「業務委託契約」の「委託事項」に含まれている場合などもあります。
(2)
顕名主義
代理人による契約は、本人に契約の法律効果を帰属させる目的で行われます。受託会社は、売買契約書の売主欄に「別荘の所有者〇〇代理人受託会社」と表記(顕名)して契約書に記名捺印を行います。なお、買主が「別荘の所有者〇〇」のための売買契約であることを認識している場合には、顕名がなくとも「別荘の所有者〇〇」と買主間の売買契約の効果が生じます。
(3)
「代理権の範囲内」の行為
代理人が「代理権の範囲内」の売買契約を行う事により売買契約が有効に成立します。代理人が「無権限」や、「代理権の範囲内」を逸脱していた場合には、「無権代理」行為であり、その売買契約は無効です。なお、この場合でも「表見代理」が成立する場合には有効となります。
※無権代理・表見代理については、【Q 無権代理・表見代理】を参照ください。
(4)
代理人の意思表示
代理人による売買契約を行うに際し、契約の意思表示に錯誤や詐欺等の事情がある場合には、本人の意思表示ではなく代理人の意思表示についてその事情の有無を判断します。
代理人による不動産売買契約を行う場合の注意点を教えてください。
代理人による不動産売買契約は、以下の点に注意する必要があります。なお、宅地建物取引業者や法律家等の専門家の助力を得て行う事が大切です。
1 売主本人の意思確認
代理人による不動産売買契約では、売主本人と面談し、売主の「意思能力」や「売買の意思」を確認する機会を持つことが大切です。売主本人が「意思能力」を欠く場合には、代理人に対する代理権授与が無効であり、売買契約も無効となる可能性があるからです。本人が遠方にいる場合や健康上の理由等、直接の面談が難しい場合もありますが、可能な限り、本人との面談に努力してください。
2 代理権の有無・範囲の確認
代理人が任意代理人の場合、代理人から「委任状」や「委任契約書」等の提示を受けて代理権の有無、代理権の範囲を確認します。その際、委任者の捺印とされた印影を委任者本人の「印鑑登録証明書」等と照合し代理権付与の真否を確かめます。なお、代理人が本人の身近な関係者(子・配偶者・取締役)であり、その本人の実印等を保管する立場にいる場合には、本人の実印の恣意的な利用の可能性もあるため、単に「委任状」や「委託契約書」等に捺印された印影と本人の実印との照合を行うだけでは適正に確認したとは言えないとして、代理権の確認に過失を認めた判例もあります。
こうした場合には、単に印鑑証明書等で印影を確認するだけでなく、本人と直接面談し売買の意思及び代理権の付与等を確認することが大切です。又、法定代理人の場合には、本人の「戸籍謄本」、家裁の「審判書」や「売却許可」等の関係資料の提示を受け代理権の有無、代理権の範囲を確かめて下さい。
3 売主欄の顕名
売買契約書の売主欄に「売主〇〇代理人△」や「売主〇〇法定代理人△」との顕名がされているかを確認します。
4 代金支払先の確認
代理人による不動産売買契約では、通常、代理人が売買代金の受領権限を有しますが、売主が「売買代金支払先」を代理人以外に指定している場合もあります。代理人が売買代金の「受領権者」である場合には、不動産の引渡し(所有権移転登記)と引換えに、代理人に対し売買代金を支払い、売買代金の受領書の交付を求めてください。代理人には受領書を作成交付する義務があります。
また、「売買代金の支払先」が売主本人の指定する銀行口座等の場合には、その口座に送金し事後に売主本人から受領書の交付を受けることになります。なお、共有不動産で売主が複数となる場合に「売買代金指定先」を「特定売主の口座」に集約する例がみられます。その場合には、「特定売主」の口座に集約する旨が売買契約書に明記されているかを確認してください。
代理人が無権限や代理権の範囲外の契約を行った場合には、その契約の効力はどうなるのでしょうか。
1 無権代理
代理権を有しない者が、代理人として行為をすることを「無権代理」といいます。「無権代理」による行為は、本人に効果は生ぜず無効です。但し、事後において、本人が追認(有効な行為と認める)した場合、または、表見代理が成立する場合には契約時に遡及して契約の法律行為効果が本人に帰属します。
2 表見代理
表見代理とは、「無権代理」による売買契約が行われ下記①②③に該当する場合には、その代理行為を信頼した相手方を保護するため「有効な代理行為」とみなす制度です。
①
代理権授与の表示による表見代理(民法109条)
売主が、代理人に代理権を付与していないにもかかわらず代理権を与えた旨を買主に表示していた場合、その買主が、売主の代理人に代理権がないことを知らず、かつ、知らないことに過失がないとき
②
権限を越える行為の表見代理(民法110条)
売主の代理人が代理権の範囲を越える行為をした場合に、買主がその代理人の行為を代理権の範囲の行為と信じ、そのように信じることに正当な理由があるとき
③
代理権消滅後の表見代理(民法111条)
売主の代理人に付与された代理権が消滅後に、その代理人が代理人として売買契約をした場合に、買主がその代理人の代理権の消滅を知らず、かつ、知らないことに過失がないとき
なお、裁判例では、①、②、③が競合している場合にも、これらの規定を類推適用して表見代理を認める場合があります。