不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
借地権付建物の売買のトラブル~借地権付建物の売主の瑕疵担保責任?
設例
私は、Aが借地上に所有する建物を半年前に購入しました。この建物の購入に際しては、地主Bから借地権譲渡の承諾を得ています。
しかし、購入して数ヶ月後の集中豪雨により、この建物の敷地の擁壁の一部が崩落し、敷地や建物に著しい傾きが生じ、危険な状態となりました。被害発生後の調査によれば、敷地内の擁壁に施工不良があったため、集中豪雨による水圧に耐えきれず、擁壁が崩落し、敷地や敷地上の建物に著しい傾斜が生じる事態になったことが判明しました。現在も危険な状態が続き建物を使用することが不可能な状況です。
私は、こうした状態の借地上の建物を売却したAに対して、瑕疵担保責任として、売買契約を解除することができるでしょうか。また、地主Bに対し、何らかの対応を求めることが可能でしょうか。
回答
1.敷地や建物の傾斜の原因となった敷地の擁壁の施工不良は、借地契約の目的物である敷地の不具合状態ではありますが、借地権の瑕疵(欠陥)ではありません。従って、あなたとAの売買目的物である借地権付建物の瑕疵には該当しないと考えられます。このような場合、売主Aに対する瑕疵担保責任を追求することは難しいでしょう
2.しかし、敷地の擁壁の施工不良は、借地契約の目的物である敷地の不具合と考えられますので、借地人であるあなたは、地主Bに対し、借地契約上の修繕義務の履行として、擁壁等の補修(修繕)を求めることが可能と考えられます。
解説
1.瑕疵担保責任
売買の目的物に「隠れた瑕疵」(売買の目的物が通常有すべき品質・性能を備えていない状態)がある場合には、買主は、売主に対して損害賠償請求を、また、瑕疵が契約の目的を達成できない程度に達している場合には、契約解除を求めることができます(民570条、566条)。
2.借地権の瑕疵とは
(1)本件売買契約の目的物
本件売買契約の目的物は、「建物」とその敷地の「借地権」です。従って、あなたが、Aに対し、売買契約の瑕疵担保責任を追及するには、「建物」、及び、「借地権」に「隠れた瑕疵」が存在することが必要です。
(2)借地(敷地)の擁壁の施工不良
借地(敷地)の擁壁の施工不良は、借地契約の目的物である土地(敷地)の欠陥状態ですので、地主は、借地人に対し、借地契約に基づき土地(敷地)の欠陥状態を修復する義務(修繕義務)を負担しています(民606条)。地主の修繕行為により、借地契約の目的物である土地(敷地)の正常な利用が可能となりますので、土地(敷地)の欠陥状態が解消されます。
このように、借地(敷地)の擁壁の施工不良は、借地契約の目的物である土地(敷地)の欠陥ではありますが、地主の修繕行為により借地権の正常な行使が可能となる事から、「借地権」自体の欠陥とは異なります。
(3)借地権の瑕疵
では「借地権」の瑕疵とは、どのような状態を言うのでしょうか。
この点につき、本設例と同様の事案において、裁判所は「敷地の面積不足、敷地に関する法的規制または賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買された借地権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、敷地の欠陥をもって、売買の目的物(借地権)に瑕疵があるということはできない」と判断しています(最高裁平成3年4月2日判決)。
この様に、「借地権」の瑕疵とは、「借地権」の売買に際し、予定された借地面積に不足がある場合、また、借地(敷地)に対する法的規制または賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって予定した利用権の行使ができない状態等、「借地権」の売買契約時に想定された品質・性能が欠けている状態を指すものと考えられます。
3.あなたの対応
従って、本件の借地(敷地)の擁壁の施工不良に基づくあなたの建物や敷地の著しい傾斜に伴う被害は、あなたとAとの間の「借地権付建物」売買契約の目的物の瑕疵による被害ではない為、本件において、あなたが、Aに対し、瑕疵担保責任を追及することは困難と考えられます。
しかし、本件の借地(敷地)の擁壁の施工不良は、借地契約上の目的物である敷地の欠陥状態ですので、地主Bには借地契約上、その修繕義務があります。そのため、あなたは、借地人として、Bに対し、擁壁の施工不良等の補修を要求し、本件建物での安全な居住を確保する対応を行なう必要があります。