不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
改正空き家等対策特別措置法
【Q】
数年前に相続した土地・建物が、長年空家となっており、遠方にあるため、管理も不十分な状態です。空家に関する法律が改正されたと聞きました。改正法により空家の所有者にどのような影響があるでしょうか。
【回答】
「空家等の対策の推進に関する特別措置法」が改正され、同改正法が令和5年12月13日に施行されました。同改正法では、「特定空家等」となる前の段階から対策を講じる必要があるために、(1)空家の有効活用の拡大(2)空家の適切な管理の確保(3)特定空家の除去等を強化する規定が定められています。具体的には、「空家等活用促進区域」制度が創設され、接道規制・用途規制の合理化や市街化調整区域内の用途変更の措置が講じられます。また、市区町村長は「管理不全空家」(そのまま放置すれば「特定空家等」に該当するおそれのある空家)の所有者に対して、「指導」・「勧告」をすることができ、「勧告」を受けた場合、当該空家の敷地に係る固定資産税等の住宅用地特例が解除されます。空家の所有者は、これまで以上に適切に空家を管理する責任があります。
1 空家等対策特別措置法(改正前)
近年、管理不十分な状態の空家が増加し続けており、倒壊の危険や雑草の繁茂等、防災・衛生・景観等の点で周辺地域に悪影響を及ぼしていることが社会問題となっていました。これらの空家問題に対処するため、平成26年11月に「空家等対策推進に関する特別措置法」(以下「空家等対策特別措置法」という)が制定されました(平成27年5月26日全面施行)。
空家等対策特別措置法(改正前)では、「空家等」(建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がされていないことが常態であるもの及びその敷地)のうち、①倒壊等の著しく保安上危険となるおそれのある状態、②著しく衛生上有害となるおそれのある状態、③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態、と認められる空家を「特定空家等」と定義し、市町村長は「特定空家等」の所有者に対して、除去、修繕、立木竹の伐採等の周辺環境の保全を図るために必要な措置をとるように「助言・指導」、「勧告」、「命令」を行うことができ、「命令」を受けた空家に改善が見られない場合には、「行政代執行」により、行政が所有者に代わり、樹木の伐採や建物の解体等の対処を行い、その費用を所有者に請求することが認められています。また、空家等対策特別措置法(改正前)では、「空家等」についての情報収集、財政上及び税制上の措置等について定めています。
2 改正空家等対策特別措置法
しかし、空家問題を抜本的に解決するためには、「特定空家等」となる前の段階から対策を講じる必要があるため、(1)有効活用の拡大、(2)適切な管理の確保、(3)特定空家の除去等、を強化する内容の改正法が制定されました(令和5年12月13日施行)。
(1) 有効活用を拡大
ア. 空家等活用促進区域
これまで、空家が中心市街地等に集積することで地域の機能を低下させていること、また、建築基準法等の規制のために空家の建替え等ができないケースが多いことが問題とされてきました。そこで、市区町村は、中心市街地等の区域のうち、空家の分布や活用の状況等からみて、空家の活用が必要と認める区域を「空家等活用促進区域」と指定し、同区域内について、接道規制・用途規制の合理化や市街化調整区域内の用途変更の措置を講じることが出来るようになりました。
これにより、「空家等活用促進区域」において、市区町村が活用指針に定めた「特例適用要件」に適合し許可された場合には、接道義務を満たさない敷地上の空家についても、建替え・改築が可能となる等、新たな活用が期待されます。
イ. 空家等管理活用支援法人
空家所有者が空家の活用や管理等について相談し、また、行政が情報提供等を行う環境が整備されていなかったため、市区町村が空家の活用や管理に積極的に取り組むNPO法人、社団法人等を「空家等管理活用支援法人」に指定し、指定をうけた「空家等管理活用支援法人」が空家所有者と活用希望者間の情報提供等のマッチング業務や空家活用や管理の相談、普及啓発等の活動を行うことが出来るようになりました。
ウ. 公社・UR・JHFによる支援
地方住宅供給公社、都市再生機構(UR)、住宅金融支援機構(JHF)は、市区町村等からの委託に基づき、空家の活用に向けた業務(売買分譲・まちづくり構想・融資情報の提供等)を行い、市区町村を支援することが出来ます。
(2)適切な管理の確保
ア 「管理不全空家」
周辺環境に著しい悪影響を及ぼす「特定空家等」となる前の段階から、管理の確保を図る必要性が高いことから、市区町村長は、そのまま放置すれば「特定空家等」に該当することとなるおそれのある「管理不全空家等」の所有者に対して、国の定める管理指針に即した措置を「指導」・「勧告」をすることが出来るようになりました。この「勧告」を受けた場合、当該空家の敷地に係る固定資産税等の住宅用地特例が解除されます。
イ 所有者情報の提供
市区町村は空家等に工作物(電気機器等)を設置している電力会社等に対して、所有者情報の情情報の提供を求めることが出来ます。
ウ 財産管理人による空家の管理・処分
民法では、利害関係人の請求により、裁判所が選任した「財産管理人」が管理処分できる「財産管理制度」がありますが、「財産管理制度」の選任請求権は、民法上は利害関係人に限定されていました。改正法では、空家等の適切な管理のために特に必要があると認めるときには、市区町村長も選任請求が可能となりました。
(3)特定空家の除去
ア 代執行の円滑化
緊急時に迅速に安全を確保するため、空家の除去等が必要な特定空家に対して、命令等の手続きを経ずに代執行を可能とする「緊急代執行制度」が創設されました。
また、代執行費用の徴収を円滑化するため、略式代執行時や緊急代執行時においても、行政代執行法に定める国税滞納処分の例により、強制的な費用徴収が可能となりました。
イ 報告徴収権
これまで特定空家等の管理状況を把握することが困難な場合があったため、市区町村長に、特定空家の所有者に対する「報告徴収権」を付与することで、特定空家への勧告・命令等を円滑に行うことが可能となりました。
3 まとめ
近年、我が国では、空家に加え、所有者不明土地の数も増加の一途、たどっており、空家問題と所有者不明土地問題の双方について抜本的な対策が求められています。所有者不明土地問題については、相続登記の義務化や相続土地国庫帰属制度の創設等の対策が講じられ、空家問題については、「空家等対策特別措置法」が制定されており、空家と所有者不明土地、双方の有効活用が急務となっています。今回の改正空家等対策特別措置法では、「空家等活用促進区域」制度が創設され、接道義務等の規制の合理化を図られています。空家所有者は空家の有効活用を視野に入れながら、適切に管理する必要があります。