不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
日照権のトラブル
Q
私は、媒介業者Aの仲介のもと、売主業者Bの販売した分譲マンションを購入しました。購入したマンションは、良好な生活環境を売りとして販売しており、10階建ての7階の部屋で、周辺に高い建物が無く、日当たりが非常に良い点を気に入って購入しました。
ところが、入居後半年も経過しないうちに、私のマンションから南側約30メートルの位置に、売主業者Bが30階建ての新しいマンションの建設を計画していることが明らかになりました。新しいマンションが計画通りに建設されると私のマンションは、新しいマンションの影になり、大幅に日照時間が減ることが予想されます。
近隣住民への説明会における売主業者Bの説明では、私のマンションの建つ地域は建築基準法や条例等による日影規制の対象外の地域であり、新しいマンションをこのまま計画通りに建設しても、法律上問題は無いとの説明でした。
私は、マンションを購入する際に、マンションの建つ地域が日影規制の対象外であることや、新たなマンション計画の内容について、なんら具体的な説明を受けていません。
私は、このまま日照時間が奪われることを受け入れなければいけないのでしょうか。媒介業者Aや売主業者Bに対して、何らかの法的責任を追求できないでしょうか。
A
新たなマンションの建設によって受ける日照阻害の程度が、社会生活上の一般的な受任限度を超えると判断されるに至っている場合には、違法な日照権侵害に基づく法的請求をすることが考えられます。
新たなマンションが建設される前の段階においては、日照権侵害に基づく建設工事の差し止め請求を、新たなマンションが完成してしまった場合には、売主業者Bに対して日照権侵害に基づく損害賠償請求、さらに、売主業者B及び媒介業者Aに対して、日影規制に関する説明義務違反に基づく損害賠償請求をできる可能性があります。
解説
1.日照権
私達が日常生活の中で必要な日照を享受しながら快適に生活する権利は、法律上保護に値する権利と考えられています(日照権)。そのため、建築基準法や各地の条例等によって、建物を建築する際の高さや容積率等を規制したり、周辺建物への日照阻害時間を規制することで(日影規制)、近隣建物同士の調整を図っています。
しかし、あなたのマンションの建っている地域のように、これらの日照権の十分な確保よりも、地域の発展や開発を優先させるべきと考えられている地域では、日影規制の対象外となっている場合もあります。
このような地域では、新たなマンション建設により日照阻害が生じても原則として適法であり、直ちに違法な建築とはなりません。しかし、このような日影規制の対象外となっている地域の新たなマンション建設であっても、日照阻害の程度が社会生活上の一般的な受任限度を超えると判断される場合には、その日照の阻害行為は違法となり、日照権侵害に基づく建物の建築差し止めや損害賠償請求が認められる場合があります。
2.受忍限度
日照阻害が受任限度を超えて違法と認められるか否かの判断は、①日照阻害の程度(日照阻害の時間・範囲等の程度の大小)、②地域性(周辺環境が住宅街なのか商業地域等なのか)、③被害回復可能性(被害建物の配置・構造等の点から被害回避への配慮有無)、④加害回避可能性(加害建物の配置・構造等の点から加害回避への配慮の有無)、⑤加害建物の用途(加害建物が住居なのか住居以外なのか・公共性有無等)、⑥被害建物の用途(被害建物が住居なのか住居以外なのか・公共性有無等)、⑦先住関係(どちらが先に建設されていたか)、⑧交渉の経緯(交渉が誠実に行われてきたか)等の事情を総合考慮して、日照権を侵害される側、侵害する側の損害等の比較考慮を踏まえて判断されます。
本件においても、上記にかかげた要素を中心に具体的事情を考慮して、日照阻害の程度が受忍限度を超えると判断される場合には、違法な日照権侵害であり、建物の建築差し止め及び日照権侵害による精神的苦痛の損害賠償請求が認められる可能性があります。本件では、未だ建物完成前の段階のようですので、日照阻害の回避のために、新しいマンションの配置や構造・高さ等の計画変更を要求する交渉を行うことも重要かもしれません。
3.説明義務違反
宅地建物取引業者は、売買契約の締結の判断に影響を及ぼす重要な事項について説明義務を負っており、これを怠った場合には説明義務違反に基づく損害賠償請求を負います(宅建業法35条、47条)。
本件では、あなたの購入したマンションの建っている地域が日影規制の対象外の地域であること、そのため今後新しいマンションの建設によって日照阻害の可能性があること、周辺の日影規制の具体的内容、等は、あなたがマンションを購入するか否かを判断するための重要な事柄です。売主業者B及び媒介業者Aは、これらの事実について法律上の説明義務があったものと言えます。特に、売主業者Bは、あなたのマンションの売主でありながら、新たなマンションの建築主でもあるようですので、計画が明らかになった段階で速やかに、あなたに新たなマンション計画について説明する義務があったものといえます。
本件では、売主業者Bと媒介業者Aは、これらの説明を怠っているようですので、説明義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
まとめ
日照権侵害の問題は、違法とされる受任限度を超える侵害であるか否かの判断において、事案ごとに様々な具体的要素を総合的に判断する必要があります。また、日影規制や条例等による規制の内容も、非常に専門的であり、一般消費者にとってわかりづらい内容です。
マンションを購入される際には、これらの規制内容について、媒介業者等の専門家に具体的な説明を求めて、明確に確認することが重要になります。