不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
マンション売買における駐車場利用に関するトラブル
設例
私は、マイカー通勤の必要性があり、駐車場が利用できるマンションを探していたところ、仲介業者Aから、B所有のマンションの紹介を受けました。A の説明では、このマンションでは、部屋の所有者が敷地駐車場の利用を希望すれば、申込み先着順で利用できるとの事で、現在、Bも1台利用しているとのことでした。私は、この部屋の間取り等も気に入ったので、マンション内の駐車場を利用できることが購入動機であることを事前に明示し、Bのマンションを購入しました。
ところが、入居後に、私が、管理組合に駐車場の利用申込みを行ったところ、近年、駐車場の利用希望者が多いため、管理規約(以下、規約という。)が変更され、先月から2年毎の抽選によって駐車場利用者を決定することになったと説明を受けました。仕方なく抽選申込みを行いましたが、外れたため、現在は、マンション近隣の一般の駐車場を借り、マンション内の駐車場よりも高い駐車場料金を毎月負担しています。
管理組合に確認したところ、抽選制への変更は、私がAからBのマンションの重要事項説明を受けた後、売買契約締結直前に開催された総会で決議されたことがわかりました。また、管理組合の理事会議事録によると、私への重要事項説明がされた半年以上前から駐車場利用の抽選制へ規約の変更が議題となり、その後の理事会でも検討が重ねられ、過日の総会での規約の変更決議となったようです。しかし、私は、Aからこのような駐車場利用のルール変更について一切説明を受けておりません。もし、変更の説明を受けていれば、このマンションを購入しなかったかもしれません。
質問
(1)Aが私に行った駐車場の説明は、果たして十分な説明と言えるのでしょうか?私は、Aに対し責任追求ができるでしょうか。
(2)私は、Bに対し、マンション内の駐車場を利用できなかったことを理由に、売買契約を解除できるでしょうか。
回答
(1)一般的に、マンション内の駐車場の専用使用権は、管理組合が、規約に基づき、希望する特定の区分所有者に対し、駐車場賃貸借契約を締結することにより付与(専用使用権の設定)しています。
あなたが、マンション内の駐車場の専用使用権を取得できるかは、規約の定めによります。従って、Aには、この駐車場の専用使用権に関し、規約がどの様な規定をし、又、利用ルールの変更の有無を事前に調査し説明すべき媒介契約上の注意義務があります。Aは、規約の確認、売主や管理組合への聞取り、総会や理事会の議事録の閲覧を行えば、駐車場の専用使用権のルール変更を認識できた可能性があります。Aには債務不履行責任があるでしょう。従って、あなたは、Aに対し債務不履行に基づく損害賠償を請求できる余地があります。
(2)あなたは、Aを介して、Bに対し、マンション内の駐車場を利用できることが購入動機であることを事前に明示し売買を行いました。しかし、駐車場の専用使用権は抽選制となり、あなたは、抽選に外れ、駐車場利用ができない結果となりました。こうした結果は、あなたの購入動機に関する錯誤に該当します。この錯誤が、本件マンション売買契約の重要な要素に関する錯誤と言える場合には、動機の錯誤による売買契約の無効(2020年4月1日以降は取消)を主張できる余地はあるでしょう。しかし、本来、マンション駐車場の専用使用権は、前記の規約に基づく抽選により付与されるものであり、あなたは、抽選に外れた後に、他の駐車場を利用しマンションでの生活を継続している状況を考慮すると、この錯誤は、本件マンション売買契約の重要な要素に関する錯誤とまでは評価できない可能性が考えられます。この場合には、売買契約の無効(又は、取消)は困難と思われます。
解説
1.マンション敷地の駐車場の専用使用権
マンション敷地は、各区分所有者が共有持分(又は、借地上のマンションの場合は、借地権の準共有)を有する共有物(共用部分)です。従って、マンション敷地の駐車場の専用使用権は、規約の中の「敷地の利用に関する合意」である「駐車場利用に関する定め」に基づき、一般的には、管理組合と駐車場利用希望者である区分所有者との間の賃貸借契約(又は、使用貸借契約)の締結により付与され、当該区分所有者が敷地の当該場所を自己の駐車場として一定期間に亘り専用使用する権利(専用使用権)です。その為、規約に従いルール変更がされた場合には、それに従うことになります。本件も同様であり、規約に基づき抽選制にルール変更がされた以上、あなたも抽選申し込みを行い、その抽選結果に従わざるを得ないのです。あなたが期待した駐車場の専用使用権は、そうした性質の権利なのです。
2.仲介業者の調査説明義務
仲介業者は、宅地建物の売買にあたり、買主に対して、宅地建物取引士をして、契約が成立するまでの間に、宅建業法35条1項各号の事項をはじめ、契約締結の意思決定に重要な影響を与える事項について、調査し、書面を交付して説明する義務を負っています(宅建業法35条)。
この調査説明義務の対象は、重要事項説明までに判明した権利や事実関係は勿論のこと、その後の売買契約締結、及び、物件引渡しまでの間に発生した新たな事実などについても対象となります。仲介業者は、重要事項の説明後においても、契約締結の意思決定に重要な影響を与える新事実を認識し、又は、認識でき得た場合には、速やかに買主に対し説明する義務があります。
あなたは、Aに対し、マンション内の駐車場を利用できることが購入動機であることを明示しています。従って、Aには、規約を確認し、売主や管理組合に聞取りを行い、駐車場利用のルールがどのように規定されているのか、又、ルールの変更等の可能性を慎重に調査すべき媒介契約上の注意義務がありました。本件の場合、管理組合への聞取りを行っていれば、駐車場利用の抽選制への変更の動きを把握できた可能性が高いと思料されます。管理組合の理事会や総会の議事録の閲覧や聞き取りを行えば、売買契約の締結時期までに、駐車場の利用のルール変更の可能性について把握でき得たものと思料されます。こうした点からAの調査説明義務の債務不履行責任は免れないでしょう。あなたは、Aに対し損害賠償請求を求めることができるでしょう。
3.動機の錯誤
本件の売買契約では、あなたは、Aを介し、マンション内の駐車場の専用使用権の取得が購入動機であることを明示しています。しかし、あなたは、抽選に外れ、この駐車場の専用使用権を取得できませんでした。この結果は、事前に表示された売買の購入動機に齟齬が生じた「(動機の)錯誤)」状態と評価できるかもしれません。
ところで、「動機の錯誤」は、①動機が意思表示の内容として表示され、かつ、②動機が意思表示の内容の主要な部分であり、社会通念上この点について錯誤がなければそのような意思表示をしなかっただろうと認められる場合(法律行為の重要な要素の錯誤に該当する場合)には、当該意思表示の無効(2020年4月1日以降は取消)を主張できるとの規定です。
従って、本件の錯誤の状態が、「売買契約の重要な要素の錯誤」と評価できる場合には、あなたは、「動機の錯誤」を理由に本件売買契約の無効(取消)を主張できるでしょう。
しかし、本件の場合、あなたが抽選に外れたことが駐車場の専用使用権を取得できなかった原因であり、又、抽選に外れた後にも、あなたは、他の駐車場を利用しながら本件マンションの生活を継続している状況を考慮すると、本件の錯誤状態は、売買契約の重要な要素に関する錯誤とまでは評価できないように感じられます。その場合には、売買の無効(取消)は困難でしょう。
なお、2020年4月1日から施行される民法改正によって、錯誤の効果は、「無効」から「取消し」に変更されます(新法95条)。改正法の詳細については、2018年12月号のコラムをご覧ください。
4.まとめ
マンションなどの集合住宅における駐車場利用をめぐっては、駐車場の数が入居者数に比較し少ない場合が多くトラブルが生じやすい状況にあります。又、一般的に、集合住宅の駐車場の専用使用権に関する理解が必ずしも十分でない為に、利用権に関する過度の期待を有し紛争に発展する場合もあります。本件のようなマンション購入に際しては、仲介業者は勿論のこと買主も、事前に規約等を確認しマンションや敷地等の利用に関する正しい知識を得ておくことが大切です。