

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土壌汚染のある土地の売買
【Q】
私は、経営する会社の工場用地として、売主A(法人)から本件土地を購入しました。本件土地は研究施設用地として利用されていたため、本件土地の一定範囲について、Aの負担で売買契約前に土壌汚染調査を行ったところ、基準値を超える複数の特定有害物質が検出され、当該範囲についてAの負担で浄化工事が行われました。
売買契約締結に際し、私は、Aの担当者に対して、今後、事前調査の対象外の部分について土壌汚染が発覚した場合にどのような対応となるのか確認したところ、「土壌汚染対策法に基づき対応する」旨の回答がありました。
本件土地購入後、私が改めて本件土地全体について土壌汚染調査を行ったところ、事前調査の対象外の部分で、基準値を超える複数の特定有害物質が検出されました。私は、Aに対して浄化費用等の負担を求めたところ、「本件土地に土壌汚染が生じている可能性を認識した上で売買しており、費用負担はできない」と回答されました。私は、Aに土壌汚染に伴う損害の負担を求めることができるでしょうか。
【回答】
本件土地売買契約では、本件土地の品質について、事前調査等により土壌汚染の可能性がある土地ではあるが、工場用地として使用する目的に支障を与える程度の汚染状態ではないとの認識で取引されていると考えられます。したがって、本件土地に新たに工場用地として使用する目的に支障を与える程度の土壌汚染が判明した場合には、契約内容に適合しないものであり、Aに対して契約不適合責任を追及できる可能性があります。
1 土壌汚染と契約不適合責任
土地の土壌中には、自然由来や工場の操業等に伴う人為的要因によって有害物質が混入することがあり、基準値を超える特定有害物質が検出された場合、人体に有害な影響を与える可能性があるため、除去等の対策が必要となることがあります。
土壌汚染対策法は、有害物質使用特定施設の使用廃止時、一定規模の土地の形質変更時、土壌汚染により健康被害が生じるおそれがあると都道府県知事が認めた場合等の一定の要件のもと、土地の所有者等に対して、土壌汚染調査や除去等の措置を義務付けています。土壌汚染の調査費用や対策費用は高額な負担となるため、売買契約締結後に土壌汚染の存在が明らかとなり対策費用等が生じた場合には、その負担をめぐり問題に発展することがあります。
売買された目的物が、契約締結時に当事者間で合意・予定していた品質・性能を欠く(契約不適合)場合、買主は、売主に対して、契約不適合責任に基づく損害賠償等の責任追及をすることができます。(2020年民法改正により、瑕疵担保責任から契約不適合責任に改正されました。)
契約不適合が問題となる多くのケースでは、売買契約時に売主・買主が目的物の品質・性能についてどの様に合意・予定していたのか(契約内容)が争点となりますが、この点に関し、裁判所は、当事者の合意及び契約の趣旨その他契約締結当時の事情に照らして、当事者間で合意・予定されていた品質・性能を欠くか否かを判断しています。
通常の宅地の売買の場合、特別の合意がない限り、土壌汚染のない土地として取引されたと考えられますが、本件設例の様に、工場用地として使用する目的で取引されるケースや特定有害物質使用施設としての使用履歴が明らかとなっている場合には、当該売買契約において、土地の品質・性能についてどのような契約内容であったと考えるべきなのか問題になります。
2 裁判例
(1)本件設例では、研究施設としての使用履歴がある土地の一部について、事前の土壌汚染調査の結果、土壌汚染が確認されたが、事前調査対象外の部分については土壌汚染の有無が不明である土地を、工場用地として利用する目的で取引がされています。
裁判例(東京地裁平成27年8月7日判決)では、本件設例の同様の事案のもと、原告(買主)が被告(売主)に対して、瑕疵担保責任に基づき土壌汚染費用や対策費用等の損害賠償請求を行いました。(なお、裁判例は民法改正前の事案のため、瑕疵担保責任における「隠れた瑕疵」の該当性が争点となっています。)
同裁判例では、売買契約の本件土地の品質について、①事前調査の結果及び本件契約締結当時原告において認識し又は認識し得た事情から予見可能な程度の土壌汚染の可能性があるが、②工場用地としての利用目的であることから工場用地等としての利用の範囲内で支障を生じさせるような土壌汚染は存在しないことが予定されていたと判断し、本件土地の汚染は事前調査等の事情から予見できない程度の汚染であり、かつ、工場用地等としての利用に支障を生じさせる汚染であるから本件不動産の隠れた瑕疵に該当するとして、売主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を認める判断をしました。
また、同裁判例では、本件土地が工場用地としての利用であっても「基準値を超える汚染については、工事を行う際に残土処理等の費用が増加し、法令上調査及び対策の義務を負担する可能性があるというべきであるから、原則として、同目的の範囲内での利用に支障を生じさせる汚染に該当する」と判断しています。
(2)同裁判例の判断を踏まえると、本件設例の売買契約においても、あなたが売買締結時に認識し又認識し得た事情から予見可能な程度の汚染は存在するが、工場用地等としての利用に支障を生じる汚染は存在しない土地であることが、本件土地の品質として予定されていたと考えられます。したがって、新たに発覚した土壌汚染により、本件土地の品質が前記の契約内容に適合しない場合には、本件土地の契約不適合に該当し、Aに対して契約不適合責任を追及できる可能性があると考えられます。
3 まとめ
土壌汚染の疑いのある土地について、土地一部のみ事前調査を実施し、土地全体の土壌汚染の有無が不明なまま取引されるケースも少なくありません。土壌汚染の疑われる土地の売買では、売買契約後に発覚した新たな土壌汚染等の問題について、対策費用等をどのように分担するのか、事前に合意しておくことが大切になります。
この記事を読んだあなたにおすすめの記事