不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
遺産分割の期間制限
【Q】
2020年に父が他界し、遺産を兄・私・弟の子供3人で相続しました。父には複数の不動産がありましたので、これらの不動産をどの様に分割するかについて遺産分割協議をすすめていますが、法改正により、遺産分割について期間制限ができたと聞きました。
(1)どのような改正でしょうか。
(2)今後、不動産の売却に向け、どのような点に注意する必要があるでしょうか。
【回答】
(1)あなたを含む相続人は、相続開始(父の死亡)により遺産の不動産を「法定相続分」に応じて共有しています。そして、今後、この遺産をどの様に分割するかを決めるのが遺産分割の協議です。ところで、相続法の改正により、令和5年4月1日以降、「相続開始から10年経過した後」に行う遺産分割は、原則、「法定相続分(又は指定相続分)」によるものとされました(民法904条の3)。これにより、一定の例外的事情が認められる場合を除き、特別受益や寄与分を考慮した「具体的相続分」による遺産分割を行う場合には、「相続開始から10年以内」に遺産分割協議を成立させる必要があります。この遺産分割の期間制限の改正規定は、令和5年4月1日以前に発生した相続についても、一定の猶予期間を設けて適用されます。
(2)また、後記の通り、相続人は、令和6年4月1日より、不動産の「相続登記等」を行う事が義務化されます。遺産分割が成立するまでに時間がかかることが予想される場合には、「相続登記等」を速やかに行う必要があります。
1 遺産分割
相続財産は、相続開始(被相続人の死亡)により、遺言が存在する場合を除き、「法定相続分」に従った法定相続人の遺産共有となります。遺産分割は、遺産共有状態にある相続財産を、法定相続分や遺言による指定相続分を基本としつつ、特別受益や寄与分を考慮した自由な分割である「具体的相続分」による算定により、終局的な帰属を決定します。遺産分割は、まずは、相続人間の任意協議で行われますが、任意協議が整わない場合には、調停や審判を経て決定されます。
2 期間制限
これまで、遺産分割に期間制限が設けられていなかったため、相続開始後、長期間放置されたまま数次相続が発生し、遺産の管理・処分が困難となるケースや長期間の経過により特別受益や寄与分の証拠が散逸し算定が困難になる等の問題が発生していました。そこで、早期の遺産分割を実現するために、相続法改正により、令和5年4月1日以降、「相続開始から10年経過した後」に行う遺産分割は、特別受益や寄与分の規定を適用せず、原則、「法定相続分(又は指定相続分)」によるものとされました(民法904条の3)。
但し、
①10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割(調停・審判)の請求をしたとき
②10年の期間満了前6ヵ月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6ヵ月以内に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
は例外として、「具体的相続分」による遺産分割が行われます。
また、相続開始から10年経過後でも、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合には、具体的相続分による遺産分割が可能です。
3 経過措置
これらの改正法は、改正法施行日(令和5年4月1日)前に、相続が発生した場合の遺産分割についても適用されますが、「相続開始時から10年経過」時、又は「令和10年4月1日(改正法施行日から5年経過時)」のいずれか遅い時までの猶予期間が設けられています。
4 遺産分割調停・審判の取下げ
これまで遺産分割調停・審判の取下げに制限はなく、自由に取下げをすることができました。しかし、遺産分割の期間制限が設けられたことに伴い、相続開始から10年経過した後に、遺産分割調停・審判の取下げをするときには、相手方の同意がなければ取下げができないことになりました。
5 相続登記等の義務化
令和6年4月1日から、「相続登記等」の申請が義務化されます。相続人は、「相続開始及び所有権取得」を知った時から3年以内に、相続登記を行う義務があります。この義務を懈怠すると過料の制裁があります。この期間内に遺産分割が成立しないために相続登記ができない場合には、各相続人は「相続人申告登記」(相続発生・相続人との事実を申告し、法務局が付記登記)により義務懈怠を免れます。しかし、遺産分割により不動産を取得した場合には、遺産分割が成立した日から3年以内に遺産分割の内容に応じた所有権移転登記の申請をすることが義務付けられています。施行日(令和6年4月1日)前に相続が発生した場合にも、令和9年3月31日までに、相続登記申請を行う必要があります。
6 まとめ
以上の通り、相続法改正により、具体的相続分による遺産分割について、原則、相続開始から10年の期間制限が設けられました。本件設問のケースにおいて、特別受益や寄与分等を考慮した遺産分割を行う場合には、相続開始から10年の期間内に遺産分割を行う必要があります。また、令和6年4月1日より、相続登記が義務化されるため、遺産分割成立後は速やかに所有権移転登記を行い売買に備える必要があります。