不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
眺望に関する説明義務
Q
私は、とあるリゾート地のマンション(以下「本件マンション」といいます)を所有していますが、別のマンションを購入するため、本件マンションの売却を考えています。本件マンションは、海の近くに位置しており、リビングの窓から海を一望できるのが最大の特徴です。
私が、本件マンションを新築で購入した時の広告には、「オーシャンビュー」であることが大々的に宣伝されており、販売を担当していた不動産業者からも、海が見えることが特徴であるとの説明を受けました。私としても、リビングから海が見えるこの眺望を気に入ったため、本件マンションを購入したという経緯があります。
私が懸念しているのは、本件マンションと海の間には、更地(以下「本件隣接地」といいます)が広がっているのですが、本件隣接地上にどうやら新たに高層マンションが建設される計画があるようです(以下「本件計画」といいます)。
私は、本件計画を建設業者に勤めている友人から教えてもらったのですが、世間一般にはまだ公表はされていません。
本件隣接地上に高層マンションが建設された場合、本件マンションからは海を見ることができなくなると予想されます。
私としては、本件マンションをなるべく高値で売却したいため、本件マンション最大の特徴であるリビングから海が見える点をアピールするとともに、本件計画を買主に伝えずに売却活動を行いたいと考えています。このような売却活動を行うことに問題はないのでしょうか。
A
1 不動産売買における説明義務
不動産売買において、売主は、売却予定の不動産を所有しており、当該不動産について熟知しているのに対して、買主は、売主から提供された情報などを有しているにすぎないため、売主と買主との間には情報格差が定型的に存在します。
このような、情報格差が定型的に存在する状況では、公正な取引を期待しにくいことから、売主は、買主に対して、説明義務を負うことになります。
売主が、具体的にどのような事実について説明義務を負うのかという点については明確な基準がありませんが、問題となっている情報の重要性・周知性・偏在の有無は説明義務の存否の判断に当たって考慮されるべき事項とされています。
では、今回のご相談者様は、本件計画を買主に伝えるべき説明義務を負っているのでしょうか。
2 本件売主の説明義務
本件マンションは、海の近くに位置しており、リビングから海を眺めることができるのが最大の特徴です。このようなマンションの所有者が享受し得る眺望は、周囲の状況が変わることによって、変化することを余儀なくされるものであり、独占的・排他的に享受し得るものではありません。そのため、マンションから海を眺める権利、いわゆる眺望権は、法的な保護の対象とならないのが原則です。
このように、眺望権は、法的に保護された権利として認められにくいものですが、マンションを購入する者にとって、重要な関心事であり、購入の動機付けとなるものです。本件のご相談者様も、本件マンションのリビングから海が見えるという点に惹かれて、本件マンションを購入したという経緯があります。そのため、本件計画の有無は買主にとって重要です。
また、ご相談者様は、建設業者に勤めている友人から情報を入手して本件計画を知っています。他方、本件計画は世間一般にまだ公表されておらず、周知されていないため、買主は本件計画を知らないと考えられます。このように、本件計画の有無につき売主と買主との間では情報の偏在があります。
したがって、ご相談者様としては、本件マンションの売却に際して、本件計画を買主に伝える義務があり、本件事実を伝えずに売却する行為は、説明義務違反になるという問題があります。
3 小括
不動産売却に際して、売主は高値で売却したいと考えるあまり、買主に不利な事実を伝えることをためらってしまう場面もあると思われます。
しかしながら、後々のトラブルを防止する意味でも、きちんと買主に説明を行うことが必要です。眺望に関して、どのような説明を行えばよいか、判断に迷われた場合には、専門家に相談することをお勧めいたします。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。