不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
購入した土地の境界上の塀に関するトラブル
【Q】
私は、売主業者Aから、隣地Bとの境界にブロック塀が存在する中古の戸建住宅を購入しました。売買に際し、隣地Bの所有者との境界に関する立会確認書の交付を受けており、境界自体に争いはないのですが、購入後、中古の戸建住宅を解体し、新築住宅を建築する為に本件土地の測量を実施したところ、ブロック塀が本件土地と隣地Bとの境界線上に位置していることが確認されました。私は、ブロック塀は本件土地内に設置された売主業者Aの所有の塀と考えて購入したのですが、改めて、売主業者Aに確認すると、この塀は、売主業者Aが本件戸建住宅を取得する前から存在しており正確な事はわからないとの回答でした。ブロック塀は、本件土地と隣地Bに跨るように設置され、かつ、かなり老朽化しており倒壊の危険性もあるため将来的に撤去して新たな塀を設置する必要があると考えています。
(1)このような状況の場合、私の判断で、このブロック塀を撤去して新たな塀を設置しても良いのでしょうか。
(2)また、これらの塀の撤去費用及び新たな塀の設置費用は誰が負担すべきでしょうか。私だけでなく隣地Bの所有者や売主Aにも負担責任があるのではないでしょうか。
【回答】
(1)あなたの判断でブロック塀を撤去できるのは、ブロック塀があなたの所有の場合に限ります。先ず、このブロック塀の所有者(又は共有者)が誰なのかを確定してください。そして、このブロック塀を撤去することができた後に、本件土地内に新たな塀を設置する事はあなたの判断で出来るでしょう。
(2)これらの塀の撤去費用及び新たな塀の設置費用は、先ずは、各塀の所有者(又は共有者)が負担するのが原則です。なお、このブロック塀の撤去が、隣地Bへの越境による隣地所有者からの移設要求、又は、隣地への倒壊の危険性を回避する目的で行われ、この様なブロック塀の設置状況が、あなたと売主業者Aとの売買契約締結の判断に影響を与える重要な事実に該当すると考えられる場合には、本件売買契約における「契約不適合」に該当し、あなたが負担する撤去費用の一部について、売主業者Aに対し契約不適合責任に基づく損害賠償請求を行う事が可能な場合も考えられます。
【解説】
1 塀をめぐるトラブル
既存の塀が存在する宅地などの売買では、老朽化した既存の塀の撤去や新たな塀の設置をめぐり種々のトラブルが生じることがあります。
既存の塀の撤去行為は、塀の所有権の消滅行為であり、その塀の所有者の承諾が必要です。塀が共有の場合には、共有者全員の同意が必要となります。
又、その塀が隣地に越境している場合には、隣地の一部に侵入している状態ですので、隣地所有者から移設(撤去)を要求された場合、原則として、その要求に応じる責任があります。他方で、隣地の一部の時効取得の問題となる場合もあります。
更に、塀が隣地に倒壊する危険性がある場合には、塀の所有者は、その危険を防止する義務があります(工作物責任)。
2 境界上に設置された塀
近時の塀は、敷地の所有者が自己所有の工作物として敷地内に自由に設置していますが、既存の塀の中には、本件のブロック塀の様に両方の土地に跨るように境界線上に設置されたものも存在しています。こうした既存の塀は、隣接する土地の境界線を示す機能を重視して境界線上に設置し、塀の構造も板塀又は竹垣その他の類似のものが多く、設置費用の負担も協議の上で行い、共有物とされる塀が多かったと思います。しかし、その後、塀の改修や撤去を契機に、塀の構造を恒久性の高いものに変更し、又、次第に、各自の工作物として各敷地内に設置することが多くなりました。
従って、境界線上に設置された塀の場合には、隣地所有者との間で、当初の塀の設置経緯及び設置費用の負担の有無を確認し合い、又、当該塀の設置構造(塀の支えなどの位置)等から塀の管理及び利用が誰によりどの様にされてきたかを判断しながら塀の所有者を調査確定する必要があります。調査によっても所有者が判明しない場合には、境界線上に設置された塀は隣地との共有と推定されますので(民法229条)、塀は隣地所有者との共有物という前提で、塀の撤去を隣地所有者と協議する必要があるでしょう。
3 塀が売主業者Aの所有であった場合
(1)本件塀が売主業者Aの所有であった場合、本件売買契約によって、本件土地及び中古の戸建住宅の所有権と共に、塀の所有権もあなたに移転します。従って、あなたの判断で自己所有物である塀の撤去を決定することができます。
(2)寧ろ、本件塀の設置状態は、塀の一部が隣地Bに越境し隣地所有権を侵害している状態ですので、仮に、隣地Bの所有者から本件塀の越境状態の解消を求められた場合には、原則として、それに応じる義務を負担しています。もちろん、本件塀の設置の経緯の中で隣地の従前の所有者が越境を同意していた場合には、直ちに応じる義務はないでしょう。なお、売主業者A及びあなたは、隣地Bの所有者との間で隣地との境界線について争いがないので、隣地の越境部分の自主占有は認められず取得時効は問題とならないでしょう。
(3)更に、本件塀は老朽化しているようですので、今後、地震等により塀が倒壊し、隣地Bを含む周囲に被害を生じさせた場合には、あなたは被害者に対して工作物責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があるため、塀の適切な修繕をする維持管理の義務があります。
(4)従って、本件塀が売主業者Aの所有であった場合には、あなたは、隣地所有者と時期の協議をした上で、可能な限り速やかに、この塀を撤去することを検討すべきと思料します。
(5)その後に、新たな塀を本件土地内に設置する場合には、あなたは、隣地への日照や景観に配慮した上で、自由な素材・高さで塀を設置することができ、又、塀の修繕や撤去もあなたが単独で決定することができます。
しかし、本件土地の有効利用のため、新たな塀を境界上に設置する場合には、あなたは、隣地所有者との間で、越境の承認、塀を共有物とするのか、塀の素材や高さや費用の担割合について協議する必要があります。
4 塀が隣地所有者の所有の場合
(1)本件塀が隣地Bの所有者の所有であった場合、あなたは、隣地Bの所有者に対し本件土地への越境を理由に本件塀の移設(撤去)を求めることになります。
(2)もちろん、前記3(2)~(5)で指摘した問題点は、この場合、隣地Bの所有者に該当しますので、置き換えて検討下さい。
5 塀の所有者が不明の場合
調査によっても、塀の所有者が不明の場合、境界線上の塀は隣地所有者との共有と推定されます(民法229条)。したがって、塀は隣地所有者との共有物であり、塀の撤去は共有物の処分行為ですので、隣地Bの所有者との合意の上で塀の撤去及び新設を進めていく必要があるでしょう。
6 売主業者Aの説明義務
本件塀が境界線上に存在している状態は、前記1~5に記載の通り、本件塀が売主業者Aの所有物の場合には、売買目的物である塀の一部が隣地に越境しており隣地所有者から越境状態の解消を求められる塀の撤去や移転義務が生じる問題となり、又、隣地所有者の所有物の場合には、隣地所有者が本件土地に越境した状態であり本件土地の所有権侵害の問題に発展しうる状態であり、売買契約締結の判断又売買価格に大きな影響を与える重要な事実に該当します。したがって、売主業者Aはこれらの事実を買主であるあなたに売買契約締結前に説明する義務があります。
また、本件土地建物の売買契約において、本件塀と境界線がどのような位置関係であるとの前提で取引したのか、その前提と本件塀の状態が異なる場合には、売買契約上の契約不適合に該当し、売主業者Aはこれに基づく損害を賠償する責任があると考えられます。
7 まとめ
古い住宅や宅地の売買では老朽化した塀が残存しており、塀の撤去・新設をめぐり、所有者の探索、費用負担等をめぐり問題となること多くあります。コラムにも記載した通り、築年数の古い塀は耐震性に劣り、大規模な地震が発生した場合に倒壊する危険性が高いと指摘されています。中古不動産とともに、古い塀も取得した場合には、塀の維持管理責任をも承継するという視点を忘れずに、適切に管理することが重要になります。