不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
不動産競売手続きと法定地上権の成否
【Q】
私は、近隣土地上に建つ本件建物が競売開始決定を受けたと聞き、入札を検討しています。物件明細書や本件建物、及び、敷地である本件土地の登記簿謄本(登記記録情報)を確認したところ、本件建物の現在の所有者はAであり、本件土地の現在の所有者はBとなっています。私が本件建物を競売で落札できた場合、私は本件建物に居住し続けることができるのでしょうか。
【回答】
本件建物への抵当権設定当時、本件土地と本件建物の所有者が同一の場合には、あなたは本件建物の買受けによって、本件土地上に法定地上権を取得することができます。従って、あなたは本件建物の利用を継続することができます。
一方で、本件建物への抵当権設定当時から、本件土地がB所有、本件建物がAの所有と所有者が異なっていた場合には、AB間で本件土地に関し設定された土地利用契約(賃貸借、使用貸借など)がありますので、あなたが、その土地利用契約を承継できるか否かにより、本件建物での居住を継続できるかが問題となります。
【解説】
1 法定地上権
(1)土地と地上の建物が同一所有者に帰属していた状態で、土地又は建物の一方に、又は、双方に抵当権が設定され、その後に、抵当権に基づく競売の結果、土地・建物が異なる所有者に帰属した場合には、民法388条は、地上の建物のために土地に対する法定地上権が成立すると定めています。
自己の所有地に自己の建物を建築することは土地所有者の権利行使であるため、建物のための土地利用契約は不要であり存在しません。しかし、競売の結果、土地と建物の所有者が異なる状態となった場合、土地の利用契約がないことによる不都合を回避するために法定地上権が定められています。
(2)民法388条は、①抵当権設定当時に土地の上に建物が存在すること、②抵当権設定当時の土地と建物が同一所有者であること、③土地又は建物又は双方を抵当の目的にすること、④土地又は建物が競売されて土地と建物が異なる所有者に帰属することの要件を満たした場合に、法定地上権が成立するとしています。
(3)本件設問のケースでは、現在の本件建物所有者はA、本件土地所有者はBであり、建物・土地は異なる所有者に帰属していますが、このような場合でも、抵当権設定当時に本件建物と本件土地が同一所有者に帰属していた場合には、法定地上権が成立します。
例えば、Aが本件建物を自己所有の本件土地上に建築する際に、本件建物の建築資金の借入れの担保として本件建物に抵当権を設定した後に、Bに本件土地を譲渡した場合などが考えられます。この場合、AとBの間で本件建物のための土地の利用契約(使用貸借、賃貸借等)が設定されたと考えられます。しかし、この利用契約は、抵当権に劣後するため、競売によって消滅します。しかし、本件建物への抵当権設定当時、本件土地・本件建物の双方がAに帰属しており、民法388条の要件①~④を全て充足するため、本件建物の買受人は、法定地上権を取得します(東京地判昭和50.12.19)。
2 既存の土地利用契約
では、抵当権設定当時に既に本件建物所有者A、本件土地所有者Bと所有者が異なっていた場合には、どの様に考えるべきでしょうか。
この場合、民法388条の要件②を充足せず、法定地上権は成立しませんが、本件建物への抵当権設定前から、建物所有者Aと土地所有者Bとの間で、本件土地に関する利用契約が設定されていたと考えられます。この利用契約は、抵当権の設定前に成立し対抗力を有していれば、競売による利用権の消滅はありません。しかし、建物の買受人が本件土地の利用契約を承継できるかは、利用契約の法的性質により異なります。
(1)利用契約が借地権の場合
登記された本件建物が本件土地上に存在する限り、借地権は抵当権に対抗することができ、建物買受人は本件建物の所有権と共に借地権を承継することができます。但し、借地権の承継には、土地所有者Bの承諾が必要となります。
土地所有者Bの承諾が得られない場合には、地主の承諾に代わる裁判所の許可(借地借家法20条)を申し立てる事ができます。この承諾に代わる裁判所の許可の申し立ては、本件建物の代金(競落代金)支払い後2か月以内に申し立てる必要があるため、注意が必要です。
(2)利用契約が使用貸借の場合
AB間の関係が親族(親子など)の場合に見受けられますが、利用契約が使用貸借権であった場合には、使用貸借権は借主の変更により終了します。したがって、建物買受人は、土地利用権を取得できず、土地所有者Bとの間で、改めて借地権設定などの承諾を得なければ、土地所有者Bから建物収去・土地明渡しを求められる可能性があります。
3 まとめ
最近は、インターネットで不動産競売物件情報を閲覧することができ、一般の方が不動産競売手続に関心を示す機会も増えているようです。不動産競売では、通常、市場価格より低い価格で不動産を落札することができますが、本件のように、抵当権設定当時の土地・建物の所有権の帰属状況等により、競売落札後に成立する土地利用権の有無・内容が異なってくることが予測されます。入札前に物件明細書等を慎重に調査する必要があります。