不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
賃貸用住宅の購入と「賃貸住宅の管理業務等の適正化法」
【Q】
(1)現在、賃貸用住宅の購入を検討していますが、賃貸経営の経験がないため、サブリースによって転貸することを考えていますが詳細がわかりません。そもそもサブリースとはどのような仕組みなのでしょうか。
(2)また、最近、賃貸用住宅の管理や経営に関する新しい法律が制定されたと聞きました。どのような内容の法律でしょうか。
【回答】
(1)サブリースとは、あなたが購入した賃貸用住宅をサブリース業者へ賃貸し(マスターリース契約)、これをサブリース業者が入居者に転貸する(サブリース契約)契約方式です。これにより、賃貸用住宅の所有者であるあなたは、入居者との間の賃貸借契約をサブリース業者に一任した状態で、サブリース業者からマスターリース契約に基づく賃料収入を得ることが可能となります。
(2)令和2年6月19日「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が公布され、同法のうち、サブリース事業に関する規制措置が同年12月15日から施行されています。これらの概要については、後述の通りですが、貸主として賃貸経営・賃貸管理を行う場合には、これに伴うリスクを十分に理解する必要があります。
【解説】
1.売買に伴う貸主の地位の移転とサブリース
賃貸借の対抗力を備えた賃貸借用住宅が売買された場合、不動産所有権とともに賃貸人の地位も売主から買主へ当然に移転すると考えられています(民法605条の2第1項)。この賃貸人の地位の移転には、売買当事者間の合意も、入居者の承諾も必要ありません。しかし、資産の流動化等により、売主に賃貸人の地位は留保し、入居者との賃貸借関係を承継せずに、賃貸用住宅の所有権のみを取得したいとの一定の需要があることから、賃貸用住宅の売主と買主の間で、①売主に賃貸人の地位を留保する旨の合意及び②賃貸用住宅を売主へ賃貸する旨の合意をした場合には、売主に賃貸人の地位を留保したまま、買主は賃貸用住宅の所有権を取得することが認められています(民法605条の2第2項)。改正民法では、これらの賃貸人の地位の移転及び留保に関する規定が整備されました。
投資用マンション等の売買では、サブリース業者(オーナーから賃借した賃貸不動産を第三者に転貸することを業とする業者)が売主となって投資用マンションを売却する際に、物件購入者との間で、①サブリース業者に賃貸人の地位を留保する旨の合意及び②物件購入者がサブリース業者へ投資用マンションを一括して賃貸する旨の合意(マスターリース契約)を締結することが行われています。これにより、投資用マンション購入者は、サブリース業者に入居者との間の賃貸経営や管理を任せた状態で、サブリース業者からマスターリース契約に基づく賃料を取得することが可能となります。
一方で、賃貸用住宅を購入し、売主から物件所有権とともに賃貸人の地位の移転をうけた上で、賃貸管理業者に賃貸管理(賃料回収や建物清掃等)を委託する方法をとる場合もあります。この方法では、賃貸用住宅のオーナ―は、入居者と直接の賃貸借契約関係が生じることになります。
2.「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」
(1)賃貸住宅管理業法の目的
近年、賃貸用住宅のオーナーの高齢化や管理内容の高度化等により、賃貸住宅のオーナー自らが賃貸管理や賃貸経営を行うのではなく、賃貸管理業者に管理を委託する管理委託方式やサブリース業者に賃貸経営を一任するサブリース方式を用いるケースが増加しています。これに伴い、管理業者・サブリース業者とオーナー・入居者間のトラブルが増加していることを受け、令和2年6月19日、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定されました。同法では、①サブリース事業に関する規制措置、及び、②賃貸住宅管理業に係る登録制度を設けることにより、賃貸住宅の管理業務等の適正化を図ることを目的としています。同法のうち、①サブリース事業に関する規制措置については、令和2年12月15日から施行されています。
(2)①サブリース事業に関する規制措置
賃貸住宅におけるサブリース事業では、サブリース業者等がサブリース事業の勧誘や広告を行う際に、サブリース方式での賃貸経営におけるリスク(サブリース業者から支払われる賃料が減額される場合があること、契約期間中においてもサブリース業者から解約される場合のあること、オーナーがマスターリース契約を解除・更新拒絶するには正当事由が必要となること等)について、一部の業者において適切な説明を行っていないことが問題とされてきました。
そこで、同法では、サブリース業者等に対して、①誇大広告等の禁止、②不当な勧誘等の禁止、③契約締結前における契約内容の説明及び事前交付等を義務づけ、違反者に対して業務停止命令や罰則等の措置を設けています。①誇大広告等の禁止、及び、②不当な勧誘等の禁止措置では、サブリース事業者の他、「勧誘者」(サブリース業者がマスタ―リース契約の締結についての勧誘を行わせる者)も規制対象としており、賃貸住宅の建設を請負う建設業者や賃貸住宅の売買の仲介を行う不動産業者等によるマスターリース契約の勧誘にも、同法の規制が及びます。
これにより、「家賃保証」「空室保証」等とだけ記載する誇大広告や、家賃減額や契約解除のリスクを明確に説明しない不当勧誘が規制され、重要事項説明においても賃貸経営上のリスクを十分に説明することが求められます。
(3)②賃貸住宅管理業に係る登録制度
一方で、賃貸管理に関しては、委託を受けて賃貸住宅管理業務(賃貸住宅の維持保全・金銭に管理)を行う事業を営もうとする者について、国土交通大臣の登録を義務付けています(管理戸数が200戸未満の者は任意登録)。また、賃貸住宅管理業者に対して、①業務管理者の配置、②管理受託契約締結前の重要事項説明、③財産の分別管理、④定期報告を義務づけています。これらの賃貸住宅管理業者の登録制度については、現時点においては、2021年6月中旬頃施行されることが予定されています。
3.まとめ
あなたが賃貸用住宅を購入し、サブリース方式を利用しようとする場合、前記1記載のしくみについて十分に理解する必要があります。また、サブリース業者との間で賃貸借契約(マスターリース契約)を締結する際には、契約締結後にトラブルとならないように、賃料が減額となる場合や契約解除に関する説明を十分に理解した上で、契約を結ぶことが必要となります。